ファカルティズ・コラム
2018年10月01日
「広告のコンテンツ化」と「コンテンツの広告化」
TVコマーシャルを見ていると、「お金かかってるなあ」と感じることが多くなりました。
特に「ギャラいくらなんだろう?」と下衆な詮索をしてしまうほど、豪華なキャスティングのCMが増えてきたと思いませんか?
代表的なのがソフトバンクの「白戸家」、auの「三太郎」でしょうか。
これらのドラマ仕立ての広告は、確かに視聴者の注目を集めています。
ドラマ仕立てだけでなく、サッポロビールのCMは著名人の「対談番組」と言えますし、松下のオキシライド乾電池の「乾電池一本で飛行機を動かして空を飛べるのか?」というのも、もはや「ドキュメンタリー番組」です。
こうした「ドラマ」「対談番組」「ドキュメンタリー」が『広告』として成立する。
これは「広告のコンテンツ化」と言えます。
では、なぜ広告がコンテンツ化するのか。
それはもちろん、視聴者に「見よう」と思わせるためです。
「録画して見る」というスタイルの特徴である、「広告をスキップする」のを防止する効果も当然期待しているはずです。
今後ともこの流れは続くのでしょうが、一方これは「広告制作コストの増加」と「内容に目が行って肝心の広告したい商品に目が行かない」というリスクを内在しています。
また、より長時間のコンテンツとして配信しやすいネットでの動画広告に視聴者が流れることで、ますますTVコマーシャルへのスポンサーの投資が減ることも考えられます。
今後どういった「広告のコンテンツ化」が出てくるのか、も楽しみですが、こうしたリスクにも注目していきたいと考えています。
さて、この「広告のコンテンツ化」の対極にあるのが「コンテンツの広告化」です。
ちゃんとした番組なのに、その実態は「広告」。
典型的な例が、「玩具を売るための特撮・アニメ番組」です。
たとえば日曜朝の「仮面ライダー」→「スーパー戦隊」→「プリキュア」は、極端に言えば「バンダイの玩具を売るための90分のCM」です。
さらに極論を言えば、これらの番組で重要なのは玩具の売上であり、視聴率は二の次なのです。
ターゲットとなる幼稚園~小学校低学年の男の子や女の子が毎週見て、「この変身アイテムほしい」と親にねだってくれる。そのために様々な工夫がなされています。
ムシキングなど昆虫ブームの時には「仮面ライダーカブト」が作られ、ハリーポッターが流行れば「魔法戦隊マジレンジャー」が製作される。
トレンドにきちんと寄り添う番組とキャラクターを毎年生み出すエネルギーと発想力には、1人のオタクとして尊敬の念すら抱きます(笑)
しかしこうした「玩具のCMとしての特撮・アニメ」が、マーケティングとして優れている点がもうひとつ。それはターゲットとしての最終顧客である子供達だけでなく、「支払い顧客である親」に対しても、しっかりと訴求する要素を入れている点です。
たとえばライダーや戦隊の「イケメン俳優の登用」は、「母親」を取り込むための工夫の一つですし、昭和の時代の戦隊やライダー(と演じた俳優)を出すのは、「父親」がターゲットです。
それだけでなく、「女の子だってヒーローになりたい」がコンセプトのプリキュアで「男の子だってお姫様になれる」と言わせ、『ダイバーシティ教育』という視点を親たちに投げかけました。
ゲームを題材としたアニメなども含め、安易な「コンテンツの広告化」は決して成功しません。
「広告のコンテンツ化」からもわかるように、コンテンツそのものがターゲットである最終顧客と支払い顧客の両方に「刺さる」質の高いものでなければならないのです。
個人的には、この「コンテンツの広告化」は、今後別の展開を見せてくれると考えています。
従来の「実質玩具メーカーのCM」である特撮・アニメ以外にも広がりを見せると思うのです。
「タイガー&バニー」というアニメでは、アニメのキャラクター達が「プロのヒーロー」という設定で、バンダイやソフトバンク、牛角などのロゴの入ったスーツをまとっていました。
最近のハリウッドSF大作で、香港や上海が舞台になるのが多いのも、中国マネーがスポンサーとして大きくなっているからでもあります。
「広告のコンテンツ化」と「コンテンツの広告化」。
これらは表裏一体であり、また企業のマーケティングを考察する上で重要な視点なのです。
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(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
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