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ファカルティズ・コラム

2020年02月06日

組織と人材のアジリティを高める

ビジネススクールの世界ランキングトップであるスイスのIMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)。
そのIMDが発表した『国際競争力年鑑』の2019年度版は、残念な結果となりました。
日本は全63カ国中30位だったのです。
以下のグラフは本調査における日本の順位の推移ですが、平成元年(1989年)から30年で、なんと1位から30位への降格です。(Excelのスキルが低く、右肩下がりのグラフでなくてすいません。(^^;;)
IMD2019.jpg
これが悲劇でなくてなんでしょうか。






他の国はどうでしょう。
米国はこの30年1位から4位、そしてシンガポールも1位から8位を維持しており、この2カ国が国際競争力においては高値安定と言えます。
伸びという点ではやはり中国。1992年にランキングに登場したときの33位から、2018年には13位まで順位を上げてきています。
一方、日本と同様に国際競争力の低下が顕著なのがドイツとフランスで、この2国がEUを主導してきた背景には、こうした現実もあったと見るべきでしょう。
ちなみにアジア(中東除く)に限定すると、2019年のトップは1位のシンガポール、次いで香港(2位)、中国(14位)、台湾(16位)、マレーシア(22位)、タイ(25位)、韓国(28位)となっており、日本は8番目、その下はインド、フィリピン、モンゴルのみですから、アジアだけで見ても日本の地位が低下しているのは明白です。


では、なぜ日本の国際競争力はこれだけ凋落してしまったのか。
そのヒントは、本ランキングの採点(評価)項目にあります。
多数の項目がありますが、ここでは企業活動に絞ってその特徴を見ていきます。
実は評価が高い項目、つまり日本企業の「強み」もあるのです。
—————————————–
<日本企業の強み>
 ○ 人材の確保と維持  4位
 ○ 顧客満足の追求  4位
 ○ CSRへの意識  4位
—————————————–
次に弱みも見ていきましょう。
—————————————–
<日本企業の弱みみ>
 × 起業家精神 63位
 × 管理職の国際経験 63位
 × 組織の敏捷性 63位
 × ビッグデータ活用 63位
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なんと63カ国中の最下位がこれらです。
このデータから言える日本企業の特徴を「人」にたとえるとこうなります。
『真面目ないい人だが保守的かつ内向きで動きが遅い』
何かもう…
「だよねー」としか言えません(笑)
いや、笑っている場合ではないのです。
・無難な前例踏襲が常態化している組織
・新たな挑戦には二の足を踏み、「絶対うまく行くんだな?」と言うトップ
・事例がないと決してGOを出さない上司
・大企業に入ることが目的化した学生とその親
・「海外赴任はイヤ」と言う若手社員
これでは今後とも順位を落とし続けるのは確実です。
今、日本の企業、そして人材に求められているのは何か。
その最重要課題は『敏捷性:アジリティ(Agility)』です。
外部環境の変化を敏感に感じ取り、適切な方向に素早い(Agile)舵を切る組織と仕組み、および人材が求められているのです。


スポーツの世界では、SAQトレーニングと呼ばれるものがあります。
ほとんどのスポーツでは「速さ」が重要です。
その「速さ」を、Speed(重心移動の速さ)・Agility(身体コントロールのの速さ)・Quickness(刺激への反応の速さ)の3つに分け、それを鍛えるのがSAQトレーニングです。
この考え方をビジネスの組織と人材に応用しましょう。
その場合は、SAQでなくQASで考えます。
まずはQ(クイックネス)。変化に敏感になり、素早く反応すること。
変化に敏感になるために必要なのが、「最新の情報をチェックする」こと。日々、特に他業界で何が起こっているか、それをウォッチする癖をつけましょう。
次にA(アジリティ)。適切に速く判断し、素早く方向を変える(舵を切る)こと。
朝令暮改もいとわない「割り切り」と、リスクを怖れず判断を後回しにしない「覚悟」が必要です。
そして最後がS(スピード)。決めたことを速いスピードで実現することです。
たとえば開発期間や会議時間の短縮など、徹底的に「時短」の工夫をする。
これにより組織と個人の敏捷性を高めましょう。
経営層や政府に頼ることなく、ひとりひとりがこれらを意識すれば、日本の国際競争力ランキングは上がる。
私はそう信じています。

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