ファカルティズ・コラム
2021年12月17日
「勝利の方程式」の落とし穴
本日のテーマは「勝利の方程式」。
かの読売ジャイアンツ長嶋監督(現:終身名誉監督)が試合の終盤で橋本→石毛の投手リレーで点差を守り抜くパターンを確立し、それを「勝利の方程式」と呼んだのが最初だと言われています。
本来の「方程式」の意味からするとちょっとおかしく、「定理」と呼ぶのが適切なのでしょうが、それは置いておいて要するに「勝ちパターン」を意味する言葉です。
現在では野球だけでなく、他のスポーツや投資、ビジネス、ギャンブルなどにおいても使われるこの言葉ですが、あたの周りではどのような「勝利の方程式」がありますか?
「Aの状況においてXすればうまくいく」
これに当てはまる勝利の方程式は、多様な個人や組織が「経験則」で確立してきたものです。
◆顧客からのクレームにはこう対応したらうまくいく
◆売上げが落ちてきたときはこの施策を打つと持ち直せる
◆部下が伸び悩んでいるときはこうすれば成長を促せる
などなど、様々な勝利の方程式を私たちは持っています。
「勝ちパターン」とも呼ぶように、ものごとをパターン化して考えることは「効率化」の観点においてとても重要です。
様々な状況をいちいち個別に分析していては時間がかかりますし、状況と打ち手をパターン化しておくことで、計画的にリソースを配分することができるからです。
しかしこの「Aの状況においてXすればうまくいく」というパターン化には落とし穴があることも認識しておかなければなりません。
最初の落とし穴が「Aという状況の具体性」です。
語源でもある野球の継投で言うと、たとえばこのAは「7回終わって2点差以内で勝っている」という状況です。
さて、それ「だけ」でXという継投策が有効だと言えるでしょうか。
野球に詳しい方ならおわかりの通り、他にも「8回以降の相手チームの打順や打者の打率」、「Xの要素であるピッチャーの調子や連投の有無」など、考慮すべきファクターはたくさんあります。
先に挙げた顧客からのクレームにしても、顧客やクレーム、そして商品・サービスの種類は様々であり、その組み合わせは膨大な数があります。
もちろん、すべてのファクターを考慮しようとしたらパターンの数が膨大になり、それは最早「パターン」とは呼べません。
だからある程度「割り切って」使うこと、そして状況に応じて「アレンジして」使うことがポイントです。
たとえば「8回から中川→ビエイラの継投という勝利の方程式を、9回が左の強打者がいるからビエイラ→中川と順番を入れ替える」といったアレンジをビジネスの世界でも考えるべきです。
つまりXという「ベース」となる打ち手を決めておき、X2やX3という別プランも用意しておけば良いのです。
しかしもうひとつ重要な、しかし見落としがちな落とし穴があります。
それが「Xの陳腐化」です。
「陳腐」という言葉には「ありふれていてつまらない」「古くさい」という2つの意味がありますが、この両方の意味においてXを見直さなくてはなりません。
確かに以前はAという状況でXという打ち手は有効だったかもしれません。
しかし誰もがそれに気づき、多くの人や組織がそのXを実践しているとしたら…
そう、それは最早「当たり前」の対処であり、相手チームや競合他社、そして顧客や部下も「はいはい知ってますよ」となってしまう。
その結果「Xが通用しない」というケースも増えますし、「差別化」ができなくなってしまいます。
また、社会の価値観の変化や技術革新など、Aという状況に影響を与えるマクロ環境の変化により、Xが「未だにそんなことやってるの」と言われる古くさい、そして効果の無い打ち手になっているかもしれません。
いかがでしょうか。
あなたの周りの「勝利の方程式」は、これら2つの落とし穴にハマっていませんか?
Xという打ち手のアレンジバージョンは複数用意し、状況に応じて使い分けていますか?
安直に「こういうときはこうすればいいんだ」と部下に古くさい勝ちパターンを押しつけていませんか?
こうした落とし穴にハマらないためにも、まず「自分と自組織の勝利の方程式を洗い出す」こと、そしてそれが「陳腐化していないかどうかをチェックする」ことから始めてみてください。
年末年始にそれをじっくり考えてみるのも良いのではありませんか?
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慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
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稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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福澤 克雄
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