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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2022年07月15日

「リスペクト」とは何か?

「リスペクト」という言葉が私たちの身近になってどれくらいでしょうか。
辞書を引くと「敬すること。敬意を表すこと。価値を認めて心服すること」となっていますが、それなら「尊敬する」「敬意を表す」と言えばいいはずです。わざわざ「リスペクト」と使うからには、(もちろん「カッコイイ表現」という意図もあるでしょうが)そこには異なるニュアンスがあるはずです。
では、「尊敬」と「リスペクト」の違いとは?
類義語辞典で正解を探そうとするのでなく、まずは自分の頭で考えてみてください。
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類義語の違いを考えるひとつのコツが「使用例を考える」ことです。
たとえば「信用」と「信頼」の違いを考えるとしましょう。
「私はあなたを信用している」も「私はあなたを信頼している」も、どちらも使いますね。ここからは違いは見えにくいです。
次に「あの二人は信頼関係で結ばれている」だと?
はい、「あの二人は信用関係で結ばれている」とは言いませんね。
ここから「信頼は双方向で信用は片方向」という違いの説明ができます。
では、同様に「尊敬」と「リスペクト」の使用例を考えてみましょう。
「私はAさんを尊敬している」
はい、何の問題もなく成立します。
「私はAさんをリスペクトしている」
こちらも文章としては一見成立するように思えますが、私はなんとなく違和感を感じます。
Aさんの「何を」リスペクトしているのかが気になるのです。
Aさんの見習うべき価値観や態度、知識や実績など、具体的な特性や行動のどれがリスペクトするに値しているのか。そこまで踏み込んでこその「リスペクト」だと思うのです。
また「この映画は日本文化へのリスペクトが足りない」とは言いますが、「この映画は日本文化への尊敬が足りない」といった言い方はしません。
この思考プロセスから「尊敬」と「リスペクト」の違いを…
「尊敬は人そのものに対してするもの」
「リスペクトは人以外の概念や事実に対してするもの」
と説明することができます。

さて、「言語センスを高めるためのトレーニング」という視点ではこれで終わってもいいのですが、本エントリーの主題は別のところにあります。
少し自分語りをさせてください。
私は「ウマ娘」というコンテンツにハマっています。アニメも1期2期ともに円盤も購入しましたし、ゲームも微課金ながら毎日コツコツと育成しています。
では、なぜこんなにもハマったのか?
ヒトコトで言えば、コンテンツ全体から「競馬に対するリスペクト」を感じたからです。
リスペクトの要素をブレークダウンすると、それは「ストーリーやウマ娘たちのキャラ設定、そして小ネタが史実をちゃんと押さえている」点であったり、「馬主を含めた競馬関係者への細かな配慮」だったりします。
実は法的には実在の名馬をゲーム等の中で実名で使っても問題ない、という判例があります。しかしウマ娘の運営サイドは、一頭一頭(本当はひとりひとりと言いたい)馬主さんに許可を取ってからゲームやアニメに登場させているのです。
まさに馬主さんの「所有馬への思い入れ」もリスペクトしているのです。
こうした「競馬とその史実(歴史)、そして競馬関係者の努力や想い」など、多様なリスペクトがコンテンツの至る処から感じられる。
それが競馬ファンである自分に「刺さる」。
そして「わかってるなあ(感心)」「ありがたいなあ(感謝)」という『感情』が湧き、課金してしまうw
そう、この「リスペクト」こそ、ウマ娘がヒットした大きな要因なのです。
今年のヒット映画である「シン・ウルトラマン」も同じです。
これ、エンタメだけの話しではないと思うのです。
日経トレンディの2021年ヒット商品の1位は「TikTok売れ」でしたが、これもTikTokのインフルエンサーたちが「リスペクト」する商品・サービスだからこそ、ヒットに繋がった。それが「ステルスマーケティング」との大きな違いだと思います。

さて、あなたの組織の仕組みや商品・サービスは「誰(何)のどのような事実や想いをリスペクト」しているのでしょうか。
その仕組みや商品・サービスが生まれたときにはあった「リスペクト」が薄くなってはいませんか?
ヒトは感情の生き物です。
確かな「リスペクト」を感じたときに生じる感謝や感心といった様々な感情。
それが消費を含む「ヒトを動かす」ことに繋がります。
本日からスタートする「デザイン思考のマーケティング」は、この「感情」にフォーカスし、「顧客の琴線に触れる」マーケティングについて考えていきます。

 


桑畑幸博

桑畑 幸博(くわはた・ゆきひろ)
慶應MCCシニアコンサルタント

慶應MCC担当プログラム
ビジネスセンスを磨くマーケティング基礎
デザイン思考のマーケティング
フレームワーク思考
イノベーション思考
理解と共感を生む説明力

大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應MCCでプログラム企画や講師を務める。
また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。

主な著書
屁理屈に負けない! ――悪意ある言葉から身を守る方法』扶桑社
映画に学ぶ!ヒーローの問題解決力』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2020年
リーダーのための即断即決! 仕事術』明日香出版社
「モノの言い方」トレーニングコース』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2017年
すぐやる、はかどる!超速!!仕事術』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2016年
偉大なリーダーに学ぶ 周りを「巻き込む」仕事術』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2015年
すごい結果を出す人の「巻き込む」技術 なぜ皆があの人に動かされてしまうのか?』大和出版

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