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ファカルティズ・コラム

2024年03月18日

「そうぞう力」を高める

桐朋高校の卒業式における卒業生代表、土田淳真さんの答辞が話題です。

答辞が紹介されたX(旧Twitter)では3万以上の「いいね」を獲得し、リプライでは「ものすごい名文」「胸が熱くなる」「とんでもない18歳」と絶賛の声が溢れました。

私もその全文を読み感動したひとりですが、特に以下の部分に「なるほど!」と膝を打ちました。

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僕達でなくして誰が、数学の問題集より分厚い修学旅行のパンフレットを作ったでしょうか。
学校説明会に来た小学生がこれを見て目を輝かせていたのは忘れられません。
CreationとImaginationが同じ「そうぞう」という音なのは日本語の奇跡としか言いようがありませんが、僕達にとってこの両者はもはや同一でした。
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確かに、「想像力」と「創造力」は同音異義語です。
しかし、これは本当に偶然なのでしょうか。

私は『イノベーション』を産むために必要なスキルこそ、この同音異義語である「想像力」と「創造力」だと思うのです。

一昨年のエントリー「思考と議論の「解像度」を上げる」でもお話ししたように、「想像力(Imagination)」とは「脳内に具体的な映像を思い浮かべることができる力」です。

イノベーションの視点で考えると、想像力とは「様々な未来を高い解像度で思い描くことができる力」と言い換えることも可能でしょう。

「○○という変化が起きるだろう」でなく「××という変化も起きるかもしれない」。
可能性を否定せずに時には矛盾する未来をも「想像」する。

イノベーションにおいては、「想像力=妄想力」と言ってもいいかもしれません。

「そんな馬鹿げたことが起きるわけがない」
「夢を見すぎ」

本当にそうでしょうか。

SF映画の世界で描かれた未来のガジェットを「夢」と割り切ることなく、大真面目に追求することでロボットやホログラムなどが生まれたのではありませんか?

恥ずかしがらずに、私たちはもっと「妄想」すべきであり、この「妄想力」無くして「想像」の翼を広げることは無理だと思うのです。

そしてもうひとつの「そうぞう」である「創造(Creation)」。

創造力(Creativity)も、「他者/他社が思いつかなかったことを思いつく」ことがイノベーションに繋がることを考えれば、その重要性は高いはず。

私のコンテンツである「イノベーション思考」や「デザイン思考」は、まさに「創造」のための思考法と言えます。

しかし創造力(Creativity)と言っても、人によって「発揮する方向」は違います。

実は私、クリエイターは2つのタイプに分けられると考えています。

まずひとつ目が「アーティスト」タイプ

「なにそれ?」と思えるような、斬新なアイデアを出せるのがこのタイプです。
よく言えば「発想が柔軟」、悪く言うと「常識が無い」。
たから確かにアイデアマンではあるものの、しばしば発想が跳びすぎで、周りからは「不思議ちゃん」とみなされることもある。

しかし組織でイノベーションを起こすためには必要不可欠な人材が、このアーティストタイプです。
非現実的なアイデアであっても、イノベーションの「起点」をつくることがてきます。

そしてアーティストタイプを活かすために必要不可欠なもうひとつの「クリエイター」が、「エディター」タイプです。

自分では「なにそれ?」と言われるような突飛なアイデアはなかなか思いつかない。
しかし他者が出したアイデアに刺激されると…

「だとすると○○という形もあるんじゃないかな」
「それ、××使ったらできそうだよね」
「さっきの△△と組み合わせると…」

といった「他者のアイデアの発展と組合せ」による「より面白い」「より現実的な」アイデアを生み出すことに長けている。それがエディタータイプのクリエイターです。

アーティストとエディター、まさにマンガにおける「漫画家」と「編集者」と同じ関係性がビジネスにおける創造にもあるのです。

では、「アーティスト」と「エディター」の2タイプ、皆さんはどちらのタイプでしょうか。

私は完全に「エディター」タイプです。

様々なイノベーションやマーケティングのプログラム・研修・ワークショップで、参加者に「おお」と思ってもらえるコメントが出せるのも、間違いなく自身の「エディター」資質のおかげです。

では、自身のクリエイタータイプが見えてきたとして、どのようにそれを「創造力」として磨いていけば良いのか。

どちらかと言えば、アーティストタイプは天賦の才が大きいかもしれません。
良い意味で空気を読まず、常識にも縛られない「鈍感力」は、意識的に高めることはできなくはないですが、やはり私のように「向かない」人も多いはず。

しかし、アーティストタイプを生かすも殺すも、エディター次第。
エディタータイプの「創造力」は、鍛えることができます。

まず重要なのが他者の意見を「受け止める」力。
どんなアイデアであっても「間違っていない」ととらえる。

その上で他者のアイデアとそれをベースに考えることを「面白がる」力。
面白がりながら考え、議論せずしてクリエイティプなアイデアなど出ません。

しかしそのために求められるのが他者のアイデアを発展、組合せて新しいアイデアを出したり、よりアイデアの解像度を上げ、現実味のあるアイデアに昇華するスキルです。

これには様々な視点や切り口の引き出しが必要ですから、切り口の知識とともに経験が重要となるでしょう。

さて、いかがでしょうか。

「想像」と「創造」。あなたの組織でイノベーションを起こすとしたら、課題はどちらでしょうか。
そして「創造」を実現するクリエイターのひとりとして。あなた自身は「アーティスト」と「エディター」のどちらの役割を担うべきでしょうか。

 

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