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ファカルティズ・コラム

2026年06月24日

ビジネスパーソンが「機能的非識字」を克服する具体的アプローチ

ビジネスシーンで「言った・言わない」のトラブルが絶えなかったり、何度も同じミスを繰り返す部下に頭を抱えたりしたことはありませんか?「日本語が話せるし、メールも読めているはずなのに、なぜか意図が正しく伝わらない……」。

実は今、初等・中等教育の現場で、そして私たちビジネスパーソンの間で「機能的非識字(ファンクショナル・イルリタラシー)」という問題が静かに、そして深刻に広がっています。

今回は、SNSやマスメディアで話題を呼んだ2つの「読解力テスト」を入り口に、現代のビジネスパーソンが陥りがちな罠とその克服法を具体的に解説します。

まずはご自身の頭で、次のクイズに挑戦してみてください!

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1. アレクサンドラ構文
まずは小手調べです。以下の短い文章を読んで、問いに答えてみてください。

【問題】
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

問:この文脈において、以下の文中の空欄に当てはまる最も適当なものを1~4の中から選びなさい。

Alexandraの愛称は( )である。

1. Alex
2. Alexander
3. 男性
4. 女性

正解: 1. Alex
※マウスでドラッグしてハイライトさせると表示できます。
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解説: 文中に「Alexは(中略)女性の名Alexandraの愛称であるが」と明確に書かれています。主語(Alex)と述語(愛称である)の距離が少し離れており、間に情報が挟み込まれているため、文章を整理して読めないと一瞬迷ってしまう構造になっています。

実はこれ、国立情報学研究所などが開発した「RST(リーディングスキルテスト)」の流れを汲む問題です。簡単に見えますが、文章を構造として捉えられない人は「Alexandra」という文字に引っ張られて「2. Alexander」を選んだり、直前の単語に惑わされて誤答してしまうのです。

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2. アミラーゼ構文
続いて、理科の教科書に出てきそうなこちらの一文です。

【問題】
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

問:この文脈において、以下の文中の空欄に当てはまる最も適当なものを1つ選びなさい。

セルロースは( )と形が違う。

1. デンプン
2. アミラーゼ
3. グルコース
4. 酵素

正解: 1. デンプン
※マウスでドラッグしてハイライトさせると表示できます。
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解説: 文章の前半で「アミラーゼは【グルコースからできたデンプン】を分解する」とあり、後半で「同じグルコースからできていても、形が違う【セルロース】は分解できない」と対比されています。つまり「同じ素材(グルコース)からできているのに、形が違うから分解できない」と言っているため、セルロースと形が違うのは「デンプン」になります。

この問題は、文章の「対比構造(何と何が比べられているのか)」を正しく脳内で処理できないと、直前にある単語「3. グルコース」や、主語である「2. アミラーゼ」を選んでしまいがちです。

◆読めるのに、理解できない「機能的非識字」とは?

これらのクイズで間違えてしまう背景にあるのが、冒頭で触れた「機能的非識字」です。

機能的非識字とは、文字の読み書きという基本的な行為(識字)はできるものの、文章の文脈や構造、論理を正しく理解できず、実生活や仕事の現場でその知識を活用できない状態のことを言います。

決して「文字が読めない」わけではありません。一文字ずつ声に出して読むことはできる。しかし、読んだ後に「つまり、どういうこと?」と聞かれると、的外れな答えが返ってきたり、重要な条件を読み飛ばしてしまったりする状態を指します。

◆ビジネスシーンでの具体的デメリット

これは子どもたちだけの問題ではありません。むしろ、ホワイトカラーとして働くビジネスパーソンの現場で、以下のような致命的なトラブル(事例)として頻発しています。

【指示書・マニュアルの誤読による大炎上】
「Aの処理を完了し、かつBのステータスが『未着手』の場合のみ、Cのボタンを押してください」というマニュアルに対し、条件の「かつ」を認識できず、「Aが終わったから」という理由だけでCを押してしまい、システムデータを破損させる。

【メールのすれ違いによる信用失墜】
取引先から「来週月曜日の午前中、もしくは水曜日の終日なら調整可能です」と連絡が来た際、勝手に脳内で情報をガッチャンコして「来週月曜日の終日」で会議室を押さえてしまい、相手のスケジュールを大混乱させる。

【会議での論点ズレによる生産性低下】
「新規顧客を獲得するためのマーケティング施策」を議論しているのに、文脈の一部(既存顧客の解約率データなど)だけに過剰に反応し、「既存のカスタマーサポートの体制を強化すべきだ!」と的外れな主張を繰り返し、会議の時間を引き延ばす。

◆機能的非識字が起きる2つの大きな原因

日本語が母国語である私たちが、なぜこのような状態に陥ってしまうのでしょうか。原因は大きく分けて2つあります。

原因1:文法構造(係り受け・対比)の軽視

アレクサンドラ構文やアミラーゼ構文が証明しているように、多くの人が「主語と述語の関係(係り受け)」や、文章の「対比構造」を視覚的・論理的に整理できていません。文章を「構造」ではなく、目に入ったいくつかの「キーワードの組み合わせ」で、なんとなく雰囲気で推測して読んでしまっているのです。

原因2:スマホ社会による「長文スタミナ」の低下

SNSやショート動画、チャットツールの普及により、私たちは「短く、直感的な文章」ばかりを大量に消費するようになりました。その結果、複数の条件が絡み合う複雑なロジックや、長い契約書、仕様書などの文章をじっくりと読み解く「脳の体力(ロジカルな思考持続力)」が著しく低下しています。

◆ビジネスパーソンが「機能的非識字」を克服する具体的アプローチ

読解力は、才能ではなく「技術」であり「筋力」です。大人になってからでも、意識的なトレーニングで確実に克服できます。今日から実践できる方法を具体的に解説します。

1. 「主語・述語・接続詞」を抜き出す(骨組み読解)

複雑なビジネスメールや資料を読むときは、まず文章の「飾り(修飾語)」を脳内で削ぎ落とし、「誰が・何を・どうするのか」の骨組みだけを抜き出します。
特に「?が、」「しかし」「一方で」などの接続詞が出たら、そこで文章のロジックが切り替わるサインです。接続詞の前後で「何と何が対比されているのか」を意識的にマーキングする癖をつけましょう。

2. テキスト情報を「図」や「箇条書き」に変換する

文章のまま処理しようとするから脳がパンクします。
例えば、先ほどのアミラーゼ構文であれば、以下のようにメモ帳の端にサッと書き出してみるのです。

素材: グルコース(共通)
デンプン: アミラーゼで分解できる
セルロース: (形が違うから)分解できない

条件分岐の多い業務指示なら、矢印(→)を使って「条件A ──(Yes)→ 処理B」のような簡易的なフローチャートなど図解で表現してみる習慣をつけましょう。

3. 「一文一義」で書き、自分の文章にセルフツッコミを入れる

自分が発信側(メールや資料の作成者)になるときは、「1つの文章の中に、主語と述語のセットは1つだけ(一文一義)」を徹底してみましょう。目安として、1文は40?60文字程度に収めると劇的に読みやすくなります。

また、文章を書いた後に「この『それ』が指している言葉は、直前のどれのことか?」「主語と述語はねじれていないか?」と、あえて意地の悪い他人の目でセルフチェック(音読も効果的)を行うことで、自身の読解力と文章力が同時に鍛えられます。

◆まとめ:読解力は、AI時代を生き抜く最強のビジネススキル

AIが高度に発展した現代、皮肉なことに「人間の読解力」の価値がかつてないほど高まっています。

なぜなら、AIに正しい指示(プロンプト)を出すのも、AIが出してきた高度な回答のロジックが破綻していないかをチェックするのも、すべて私たち人間の「読解力」にかかっているからです。文章を正しく読めるということは、それだけで仕事のスピード、正確性、そして周囲からの信頼を圧倒的に高める「最強の生産性スキル」になります。

「自分は読めている」というバイアスを一度捨て、目の前の1通のメールから、丁寧に構造を読み解いてみませんか?

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