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ファカルティズ・コラム

2026年08月04日

観客もプロも「ひとつの楽器」に変える魔法
〜ジェイコブ・コリアーに学ぶ「最強の共創ファシリテーション」〜

現代のビジネスにおいて「オープンイノベーション」や「共創(Co-creation)」という言葉が叫ばれて久しいですが、実際に「多様な背景を持つ人々を巻き込み、その場で圧倒的なアウトプットを生み出す」ことができるリーダーはどれほどいるでしょうか。

特に、「高度な専門性を持つスタッフ(エンジニアや研究者、デザイナー)」と「現場のメンバー(営業、CS、顧客)」の間に見えない壁が立ちはだかり、議論が平行線をたどってしまうケースは少なくありません。

今回ご紹介するグラミー賞受賞アーティスト、ジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)のパフォーマンスには、異なる専門性や能力を持つ人々を滑らかにつなぎ、最高のシナジーを引き出す「最高の共創ファシリテーション」の仕組みが凝縮されています。

1. 天才マルチプレイヤーが魅せる「即興オーケストレーション」

ジェイコブ・コリアーは、イギリス出身のシンガーソングライターであり、あらゆる楽器を自在に操る超人的なマルチプレイヤーとして世界的に知られています。しかし、彼の本当の真骨頂は「一人で何でもできること」ではありません。

彼を象徴するのが、ライブ会場に集まった数千〜数万人の「観客」と、ステージ上の「プロのクラシックオーケストラ」を同時に巻き込み、その場でひとつの巨大な合唱団&合奏団に仕立て上げてしまうパフォーマンスです。

伝統的なクラシックオーケストラは、緻密に書かれた「楽譜」を正確に再現するプロフェッショナル集団です。しかしジェイコブは、名門オーケストラ(ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団やBBC交響楽団など)と共演する際、彼らの高度な演奏技術をリスペクトしつつも、楽譜を超えた「即興」の渦へと引き込んでいきます。

彼がステージ上で全身を使ってハンドサインを送ると、オーケストラが奏でる重厚なシンフォニーと、音楽教育を受けていない一般の観客が直感的に発する美しく複雑なハーモニーが完璧に融合。既存の有名曲が、その場限りの圧倒的なアレンジ作品へと生まれ変わります。

🎥 必見のパフォーマンス映像

会場全体をひとつのオーケストラと合唱団に見立て、ハンドサインひとつでプロの演奏と数千人の観客の声をコントロールし、美しく複雑なハーモニーを完成させていく圧巻のファシリテーションをご覧いただけます。20分を超える動画ですが、ぜひ最初から最後までご覧下さい。ラストではあなたもきっと感動しているはずです。

2. なぜ彼の「巻き込み力」はこれほどまでに素晴らしいのか?

ジェイコブの真の素晴らしさは、単なる音楽的IQの高さや絶対音感だけでなく、圧倒的な「コラボレーション・ファシリテーター」としての特性にあります。
ビジネスに置き換えるなら、彼は「高度な専門職チーム(エンジニアや士業)」と「現場・ユーザー(営業や顧客)」という、全く性質の異なるエネルギーを同時にファシリテートしているのです。

<プロの「枠組み」を解き放ち、主体性を引き出す>
楽譜通りに弾くことに慣れているプロの奏者に対し、その高い技術力を尊重した上で「即興の面白さ」や「プレイフルな感覚」を引き出します。専門家のプライドを傷つけることなく、新しい挑戦へ誘導するアプローチです。

<「心理的安全性」の即時構築>
観客に対して「失敗したらどうしよう」「歌が下手だから」という不安を一切抱かせません。「あなたの声が必要だ」という圧倒的なポジティブエネルギーで、場の恐怖心を取り除きます。

<「異質なエネルギー」の統合(オーケストラ × 観客)>
緻密なオーケストラの音色(ロジック)と、直感的な観客の歌声(エモーション)。一見相容れない「プロ」と「アマチュア」の境目を消し去り、全員を「同じ作品を創る共作者」として統合します。

3. 専門家と現場を衝突させずに共創させる4つのステップ

ビジネスのプロジェクトにおいて、専門家(プロ)と現場(アマチュア/ユーザー)が衝突せず、ジェイコブのステージのようにシナジーを生むための具体策を4つのステップにまとめました。

Step 1: 「共通言語」を作る(専門用語の翻訳プロセス)
ビジネスでの課題: 専門家は技術用語(Jargon)で語り、現場は感覚的な言葉で語るため、意思疎通の摩擦が発生する。
コリアーは観客に対して「五線譜」や「複雑な楽理」を一切使いません。誰でも直感的に理解できるシンプルな「ハンドサイン(手振り)」だけで音高や音量を指示します。独自の「共通言語」を作ることで、一瞬で全員を巻き込んでいます。

Step 2: 「手段」ではなく「共通の目的(問い)」を握る
ビジネスでの課題: 専門家は「どう作るか(品質)」にこだわり、現場は「今すぐどう解決するか(使いやすさ)」にこだわり平行線になる。
コリアーは「完璧に合わせること(手段)」ではなく、「今ここでしか作れない最高の音の波を作る(目的)」というひとつのゴールに全員の意識を集中させます。

Step 3: 早い段階で「小さな即興・プロトタイピング」を行う
ビジネスでの課題: 100%完成させてから現場に見せると、「使えない」と言われて手戻りが発生し、感情的な対立を生む。
コリアーは完璧な曲を押し付けるのではなく、その場で出した1音に反応を重ねる「即興(インプロ)」からスタートします。小さな音の試作を繰り返して一緒に組み上げるため、全員が「自分の作品だ」という当事者意識を持ちます。

Step 4: 相互の「見えない専門性と寄与」を可視化・賞賛する
ビジネスでの課題: 専門家は「現場は技術の難しさを分かっていない」と感じ、現場は「専門家は現場を分かっていない」と感じがち。
コリアーはオーケストラの緻密なコード進行(専門性)と、観客が直感で発する歓声や歌声(現場の熱量)。そのどちらも欠かせない要素として扱い、音が響き合った瞬間に全身で歓喜を表現します。

4. コリアーからの学び

激変するビジネス環境において、上から指示を出すだけの「管理型リーダー」の限界は明らかです。異なる強みを引き出し、即興的にオープンイノベーションを起こす「コラボレーション・ファシリテーター」への変化が求められています。以下に組織サイドと個人サイド双方のポイントをまとめました。

<組織がなすべきこと>
◆ 「専門性のタコツボ化(サイロ)」を防ぐ実験場の提供
 プロフェッショナルと現場が、同じ目線で即興的に試作・対話できる場を設置する。
◆ 計画(楽譜)と即興(アジリティ)を両立させる評価体系の整備
 当初の計画達成だけでなく、途中で起きた偶発的な巻き込みやイノベーションを正当に評価する。

<個人が意識すべきこと>
◆ 専門家へのリスペクトと「遊び心」の提示
 プロの知見を尊重しつつ、型に囚われない「問い」やアイデアを投げかけて可能性を引き出す。② 異なるレイヤーをつなぐ「通訳(翻訳)」になる専門性の高い言葉と感覚的な現場の言葉の間に立ち、双方に伝わるシンプルな「ハンドサイン」を示す。

まとめ:あなたもチームの「指揮者」になれる

ジェイコブ・コリアーは、特別な機材や一部のエリート奏者だけでなく、「その場にいる全員の声」を使って世界一美しい音楽を奏でます。
ビジネスも全く同じです。完璧な条件やリソースが揃うのを待つのではなく、「今いるメンバーの多様な強みをどう組み合わせ、どう巻き込んで化学反応を起こすか」。

今日からあなたも、メンバーの異なる「声」に耳を澄ませ、チーム全体の美しいハーモニーを奏でるファシリテーターとしての一歩を踏み出してみませんか?

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