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2014年03月11日

【ほうやのロンドン便り】ロンドンのアート探訪~美術館でのすごし方

保谷範子

The Sunflowersいま、ロンドンのナショナル・ギャラリーでは、ゴッホの「ひまわり」が2枚並んで展示されており、話題を集めています。
The National Gallery The Sunflowers
花瓶に無造作に飾られた向日葵を構図として描いたゴッホの「ひまわり」は7作品描かれていたと言われ、現存しているものは世界中に散らばっており、2枚同時に展示されるのは貴重です。
1枚はナショナル・ギャラリー所蔵、もう1枚はオランダ アムステルダムのゴッホ美術館より訪英しているもの。もちろん、それぞれを眺めているだけでも圧倒される名画ですが、2枚並んでいるものを見比べることで、同じ構図の作品であっても、色や描き方の違いに気づくことができ、作品のなかにより惹き込まれていきます。
 


ロンドンは芸術の都、アートの発信地として、歴史あるものから新しいものまでさまざまなかたちで世界有数のコレクションを楽しむことができます。
ゴシックから印象派まで西洋美術の殿堂とも言われるナショナル・ギャラリー(http://www.nationalgallery.org.uk/)、世界でも最大級の規模を誇る大英博物館(https://www.britishmuseum.org/)、現代アートの宝庫であるテイト・モダン(http://www.tate.org.uk/visit/tate-modern)など、ロンドンのいたるところに博物館、美術館、ギャラリーが点在しており、これらを堪能しようとしたら、何日あっても足りません。
イギリス人のマメで精緻な国民性がなせる技なのでしょうか。どこの美術館、博物館ともに保管状態は極めて良く、時代順であったり、地域ごとであったりと、整然と区分されて作品や所蔵物が展示されており、イギリス人の合理的な頭のなかを垣間見たような展示スタイルも圧巻です。
現代アートのまわりで楽しむ子ども達しかも、多くが国立運営で入場料無料となっており、遺大な展示の数々を時間制限なく、しかもタダで楽しむことができるなんて、イギリスという国の懐の深さにも驚きます。(もちろん、どこも寄付は受け付けているので、館内マップをもらう代わりに数ポンドの寄付をしている人が多いようです)
この”無料”という背景には、単に芸術品を展示、研究しているというだけでなく、どの美術館、博物館ともに「すべての人にとっての芸術鑑賞と教育の場」であるという、脈々と流れるイギリスの芸術に対する哲学があります。
週末は多くの観光客でにぎわう美術館や博物館ですが、平日の昼間は子どもの姿が多いことに驚きます。
テイト・モダンでは現代アートを囲みながらにぎやかにおしゃべりをしている4-5歳の子ども達。ナショナル・ギャラリーでは、小学生の課外授業でしょうか、絵画の前に30名位の子どもたちが床に座り、キュレーターのリードであれこれ語りあっています。中高生ともなると、自ら選んだ作品の前にじっと座り丹念に模写をしています。
なかには、まだ喋ることもできないような小さな子どもでさえ、お母さんの腕のなかで「この絵のなかにいる動物はなんだ?」などと話しかけられながら絵画を眺めています。
そこには、作品の歴史的背景や作家についてなど、小難しい解説は一切ないようです。「静かにしなさい」「ちゃんと観なさい」などの大人からの口やかましい御小言もありません。思い思いのかたちで作品に近づき、大人と同じく一鑑賞者として節度ある姿で芸術を楽しんでいる様子が印象的です。
大人のためのアートプログラムもちろん、大人向けの教育プログラムもさまざまに用意されており、毎日開催されるガイドツアーから、参加費を払って体験するワークショップまで、時間とお財布の許す限り、参加してみたくなるような魅力的な企画がそれぞれの美術館、博物館にあります。
ロンドンにいて思うことは、大人から子どもまで、芸術は決して特別なものではなく身近で生活の延長線上にあるということ。そのためには、国をあげての政策や教育プログラムとしての取り組みを欠かすことはできないことを強く感じます。
芸術と街、そして人との関係はどうあり、どう創ることができるのか…ロンドンのアートはたくさんの事を私たちに教えてくれます。
 

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