2014年11月11日
『リーダーのための仕事哲学』参加レポート[Session5]
森 旭彦
ロールプレイングは「マネジャーのジレンマ」
「リーダーのための仕事哲学」も終盤に差し掛かり、今回を含めて残り2回となった。今回は「ロールプレイング」、つまり演劇のように決められた役割を演じる中で自分の考えを深めたり、新しい気付きを得るというものだ。
役割は事前課題の中で説明されており、設問で自分の考えを整理できるようになっている。
場面設定等を要約すると、ロールプレイングの対象となる(もしくは 登場人物である)4人の人物、佐藤、山田・加藤・田中は、XY情報システムというシステム開発系の会社で働いている。会社のミッションは、XY証券のIT戦略支援だ。
佐藤マネージャーは今、プロジェクトリーダーを含む山田・加藤・田中らに、XY証券のWebサイト制作に関する新しいプロジェクトを提案しようとしている。それは、まもなく納品されるガラパゴス携帯に対応したXY証券Webサイトを、スマートフォン対応サイトにリニューアルするというもの。
ガラパゴス携帯にしか対応していない現在のWebサイトでは、すでに他の証券会社のWebサイトに遅れをとってしまっているのだ。
しかし、問題はプロジェクトチームへの圧迫だ。現在、佐藤マネージャーのプロジェクトチームはガラパゴス携帯に対応したXY証券Webサイトの最終的な作業に追われている。ここに新たなプロジェクトとしてスマートフォン対応をしてゆくとなると、社員はかなりの負担(残業さらには徹夜の作業)を強いられることになる。
であれば、ガラパゴス携帯に対応したXY証券Webサイト制作が完了した段階で、スマートフォン対応をしてはどうかと思ってしまうが、ここになんと競合他社が迫ってきている。独立系ITベンダーZ社が、スマートフォン対応案件を横取りするために攻勢をかけているのだ。もし案件を横取りされれば、XY情報システムの存在意義がさらに薄れてしまいかねない。
つまり、佐藤マネージャーは一歩も引くことができないにも関わらず、プロジェクトチームにも余裕がない中で、いかにして彼らを説得するかという局面にいる。
奇抜なアイデアを武器にリーダーシップをとる作戦
こうした状況に対し、私は、Z社とアライアンスを組む提案を課題に対する答えとしてまとめた。
まずXY情報システムに不足しているのはユーザーのマーケットの視点。スマートフォンが普及している現在、Web サイトの対応はまずスマートフォン1st。それは証券サイトでも同じはずだ。PCとガラパゴス携帯だけにユーザビリティを限定する策定を行っている段階で、ユーザーが全く見えていないと考えられる。
もちろん、ここで「さあスマートフォンに対応しよう!」とだけ言ったところで、現場は動かないだろう。しかしそれは現場が今までのやり方、つまり自分たちの持っている技術からスマートフォンサイト構築を評価しているからかもしれない。
たとえば、先ほどから私は「スマートフォン対応」と言っているが、今日ではスマートフォン特設のサイトをわざわざ構築しなくてもすむ方法がある。
それに、スマートフォンの先駆であるアップルのWebサイトには、基本的にスマートフォン対応のページがない。(編集局注:7月時点。現在は対応しています)
スマートフォンのリーディングカンパニーがスマートフォンサイトを持っていないということはつまり、そもそもスマートフォンサイトというものが必要ないのかもしれないということでもある。
こうした背景を本当にXY情報システムが知っているのか。自分たちの持つ技術だけでマーケットを考え、さらに、「できること」にも制限をかけているのではないだろうか。Z社とのアライアンスは、新しい光をXY情報システムにもたらすかもしれない。
といった考えをまとめたものの、問題はいかにして山田・加藤・田中役を説得するかだ。いろいろと作戦を考えながら、今日も丸の内に降り立った。
言葉には慎重に、でも人は言葉だけでは動かない
ロールプレイングでは佐藤マネージャー役は、部下役の山田・加藤・田中役を説得するように振る舞い、対する山田・加藤・田中役は佐藤マネージャー役の説得に対し、反論する姿勢を取る。
安藤さんのイントロダクションが始まった。
「言葉に注目して取り組んでみましょう。何気ない一言が相手を傷つけることも、はっとさせることもある。たとえばマネージャー役が部下役に「君たち」と言えば心理的な距離が離れます。『私は君たちと別のとこにいるよ』というメッセージになる。そこをたとえば、『わたしたち』と発言することで、心理的な距離は縮まるもの。言葉の裏側にある仕事哲学を考察してください」
現実世界でこのことに気づくのは、相手からのリアクションがあってからのことがほとんどじゃないだろうか? 会社によっては、やはり「後輩は後輩」と思われていることがあまりに当たり前になっているかもしれないし、非正規雇用者との間に格差が生じている組織もあるだろう。
人を動かすことができないのは、「当たり前」と思って口にしている言葉にその原因があるのかもしれない。言葉は大切だ。
イントロダクションを終えるとすぐに4人グループを組んでロールプレイングが始まった。
佐藤マネージャー役になった私は作戦として、「スマートフォン対応をいかに”美味しそうに”見せるか」という点で説得にかかることにした。
つまり、今回のスマートフォン対応をZ社のアライアンスを組んでやりきれば、会社の仕事として新しいモチベーションを獲得できるのではないか、それを「みんなでいっしょにやってみよう」という説得に乗り出した。
しかし、序盤から想定外の出来事があった。私は、グループのみんながスマートフォンを持っているものだと思って「みなさんもスマートフォンをお持ちのように」と言ってしまった。なんとその中にはガラパゴス携帯の愛好家がいたのである。何気ない言葉には本当に注意が必要だ。
さらに「残業しなければいけないですか?」という質問に対して、やはり「がんばってください」としか言えなかった。プロジェクトの遂行には残業は不可避だったからだ。
失敗したかなと思いつつ話していくと、案外説得に成功した。部下役の人に私の勝因を聞くと「新しいアイデアと、新しいモチベーションを前にして、否定するのが馬鹿らしくなった」というフィードバックがあった。やはり人というのは、イノベーティブな側面を持っているのだ。新しさを受け入れて進化しようという気持ちで説得すれば、必ず通じるということを確信できたフィードバックだった。
さらに安藤さんは「がんばってください」という私の言葉が良かったという。「リーダーは、時には言い切ることが大事」なのだそうだ。
また、私が部下役だった時に感じたことは、時に人格はアイデアに勝るリーダーシップを実現するということだった。
たとえば、あまり独創性はないが、「この人になら何でも相談できそう」と感じた時、人はその人について行きたいと思うものなのだ。
「このケースで一番考えないといけないのは、モチベーションの設計です。なぜこの仕事をしなければいけないか、グループ会社と本社の関係は今後どうなるべきか…。もし私自身がロールプレイングでやるのであれば、彼ら現場の叫びにこそ耳を傾けたいと思います」と、安藤さんは語る。
人を動かすときには言葉に慎重にならなければならないが、人は言葉だけでは動かないということも、同時にこのロールプレイングで実感した回だった。
プログラム詳細: 『リーダーのための仕事哲学(現:人と組織を動かすリーダー哲学)』
講師: 安藤浩之
執筆者:森 旭彦(もり・あきひこ)
ライター
京都生まれ。主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、ライティングを通して書籍、Web等で創作に携わる。
尾原史和著『逆行』(ミシマ社刊)、成毛眞著『面白い本』『もっと面白い本』(岩波書店)、阿部裕志・信岡良亮著『僕たちは島で、未来をみることにした』(木楽舎)ほか、東京大学理学部『リガクル』などで多数の研究者取材を行っている。
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~稲盛経営哲学を出発点として~
劉 慶紅
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
日本経営倫理学会常任理事
稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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『VIVANT』とテレビ局社員
福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
私にとっての道は、TBSにありました。『VIVANT』は、同じような夢を持つ若者たちの道標になってほしい、そんな思いも込めてチャレンジした作品です。日本のドラマ界、映画界を目指す皆様、夢はあるけど方法がわからない皆様の一助になればと願っております。
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