KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

学びの体験記

2021年09月14日

自分らしいキャリア開発を考える

武田 宏
キャリアコンサルタント
メンタルケア心理専門士

私のキャリアについて~自己紹介を兼ねて~

 当小冊子でキャリアについて語る前に、私自身のキャリアについて、少しだけ触れさせていただければと思います。私自身がなぜキャリア開発に興味を持ち、これからの日本を背負う人たちに、その大切な考え方をぜひとも伝えたいと考えるようになったのかを語ることで、主題に多少なりとも参考になればと思います。

 私は、学校卒業後にある上場の食品メーカーに就職しました。右も左も分からない中、最初に与えられた仕事は、バイオ商品の輸入や国内物流に関わる仕事でした。今でこそ、グローバルな仕事というのは特別な仕事ではないですけれども、私が新卒後入社した30年ほど前は、商社でもない限り、毎日が数字と英語だけの仕事というのは結構レアケースで、自分を肯定できなくて貧乏くじを引いたように感じ、その環境をネガティブに捉えていました。
(その経験が、後に大きく自分を成長させるチャンスに繋がるとは、その時にはまったく思っていませんでしたが・・・)

 その後配転があり、人事業務を主とする役割に変わりました。はじめは、「人事」といっても労務業務、つまり給与計算とか社会保険、退職金、個人税務適用などの仕事がメインでしたが、少し経つと人事制度改革の仕事をやってみないか、ということになり、初めて賃金・賞与などの労働条件や、評価・査定・分配などの仕組みについて関わることになったのです。このプロジェクトは自分のとって非常にやりがいのあるものでありましたし、その時の上司が指導してくれたことは、いまでも私の大きな財産になっています。

 その後家族の事情もあり一度は実家に戻って家業を行っておりましたが、20年ほど前に現職である工業用潤滑剤のメーカーに就職するご縁をいただきました。
 入社当初は、管理部門に籍を置きながら、社長秘書のような形で、海外展開にかかわる仕事を主にしていました。拙い英語力ではありましたが、日々英語での文書交信や会議での通訳など、前職での経験が活かされ、毎日勉強もしましたし新しい組織に早く慣れようと必死でした。

 また並行して、人事制度の見直しについてお手伝いをさせていただくことになりました。この仕事も非常にチャレンジャブルで、この時期は自分にとってとても前向きに仕事を積み重ねていきました。

 転機が起こった(転機が起こったと自分が考えた)のは、自分が管理職に昇格するタイミングでした。
 いままでは、ある意味では精一杯、自分の持てる力を出して実務的に業績や組織に貢献できれば、という思いで突っ走ってきたのですが、管理職となると、ちょっと景色が変わってきたのです。
 私が所属している部は、人事系業務、海外業務だけでなく、経理業務、情報システム業務もあり、私はその部の管理職になりました。当時私は、100%管理職になる意志が無かったと言ったら嘘になってしまいますが、どちらかといえば権威欲求というものが非常に薄い人間で、どちらかといえば好きな仕事にのめり込む「フロー体験(チクセントミハイのフロー体験のこと。後述あり。)」が原動力となるタイプなので、管理職への道は必ずしも好ましいものとは思えませんでした。
 案の定、私にとって全くの新しい仕事である経理業務や情報システム業務の部下を持つことになり、気持ちの上ではスタートから混乱してしまいました。
 部下たちは、「上司なんだからある程度は仕事内容も知っているだろうし、自分の頑張りを正しく評価して欲しい、そして自分をもっと伸ばして欲しいし高い地位にもつけて欲しい」という要求を有形無形に出してきました。仕事内容の理解度に差があると、不満そうな言動も見えました。仕事理解が及ばずに自分で仕事が遂行できないのに、その責任は負わなければならないというジレンマは、私にとってはどうしても納得のいかない世界でした。
(でも、幸いにも、その時にはまだ私の上に上司がいましたので、まだ良かったのです。現在は部門のトップですので、頼りたくても頼る人はいなくなってしまいました。)

 「管理職」の役割は、仕事のマネジメントの他にヒトのマネジメントを行い、さらに組織の将来構想を考え、部下を巻き込み、組織目標を達成する番人です。自分が好きな仕事を行い、自分の成長を実感するのが第一義ではありません。それは言葉の上では分かっているものの、仕事の上でもまた人間関係の上でも、自分の利き手とかけ離れた仕事や役割遂行することは、楽な道筋ではなかったと感じています。その難儀な道筋は、管理職として10年経験を積んだ今でも変わることの無い苦行でもあります。でもその苦行を受け入れていかなければ、自分自身の成長もないし、次の人生ステージに進むこともできないと思い、その荷物を背負ってここまで歩んできました。
 これが私のキャリアになります。

 人間誰でも、自分が頑張っていることを認めて欲しいと願っています。でも組織視点から見れば、全員が必ずしも正しい方向に向かっているわけではありませんし、その時々の組織環境や要求に対して、メンバー各々のパフォーマンスや考え方が合致しているとも限らないです。ですから企業は、色々な仕組みを整えて、一定の納得度が得られるように工夫しているのですが、人はそれぞれ違う考え方や個性、人生の目標を持っていますから、両者のギャップが埋まらないこともありますし、働くことにも支障が出てしまうことがあります。

 前述のように、私自身も大きなギャップを感じている一人です。でも、そのギャップをいかに受け入れるかによって、自分の見える世界も成長も違ってきます。

 苦しんでいるのは自分ひとりではなく、相談できる人は周囲には必ずいます。過剰な自己愛は自分を不幸にしますが、自分自身に対し正しく慈しみ、自身のキャリアを大切に育てていくことが大切だと思います。

 この小冊子には、自分の拙い経験も織り交ぜながら、そのヒントを書きだしてみたつもりです。一緒にポジティブに考えていっていただけたらと願っています。

 

小冊子について

武田さんはこれまでに学ばれたこと、研究されたことの集大成として「自分らしいキャリア開発を考える」と題した小冊子にまとめられており、本章はその冒頭部分となります。

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