KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

学びの体験記

2010年10月12日

英語と丸の内がきっかけの<広がり>-英語スキル、コミュニケーション、そして幅広いキャリアの人たちと学ぶこと-

岡安 聡史

私と英語と

 海外へ出かけても英語で困ることはそれほどなかったし、専門分野であれば英語のサイトも抵抗なく読んでいたし、TOEIC® のスコアもそこそこ取れていた。自分の英語は”適当に”できる方なのだろう - 少し前までの私は、日常業務に英語を必要とされる職場ではなかったこともあり、そう勝手に思いこんでいた。

 数年前、私が働いていた建設関連の業界は、公共事業の削減に伴い縮小の方向へ向かい始めた。一方で、海外での開発援助の需要が高まる動きもあり、私に国際協力分野への転身を勧める知人も少なくなかった。海外でのフィールドワークの経験はあるとはいえ、”適当に”できる程度の英語力が通用するのか考えてみると、仕事の現場で一体何をどう言えばいいのか、どういう言葉が返ってくるのか… 英語でのビジネス経験がない私には、そんなことがほとんどわかっていなかったのだ。


 すぐに必要ではなくても、使える英語を習得しておきたい。以前からそうは思っていた。ところが、忙しさを理由に「いつか時間ができたら…」などと言っているうちに、適当な英語のまま、気がついたら時間ばかりが経ってしまっていた。そして、今後のことも考え、あらためて英語の講座に通ってみようと思った時には、私はもう三十代後半も過ぎた年齢になっていた。

ビジネス英語を学んでみることに

 それまで私は、街で見かけるビジネス英語のスクールには先入観を持っていた。そういう場所には二十代~三十代前半の日頃から英語を使っている外資系企業や商社員の人たちばかりがいるのだろう、などとばかり想像していた。そこで、片や自己満足の英語のまま年齢を重ねてしまった自分自身を考えると、そんな現役の人たちと机を並べることに気が引けてしまうのが正直なところだった。

 とはいえ、取り敢えず自分の英語がどの程度なものなのか知ることは大事だと思い、私は友人から聞いていたブリティッシュ・カウンシルでレベル・チェックのテストを受けてみた。それが一年近く前のこと。まずはそのテストの難しさに面食らったものの、私のレベルを踏まえたアドバイスを受け、慶應MCCとのパートナーシップで開講されているスキル別のビジネス英語コースのことを知った。期間は5週間。週1回のレッスンは3時間。それまで、ほとんど独学で英語をやっていた私には不安もあったが、期間もひと月程度だし、自分に合わなかったらそれはそれで… その程度の考えで申し込んでみることにした。

 開講初日いざ教室に入ってみると、私の勝手な想像とは異なりクラスメイトの年齢層は幅広かった。自分より年上の方も何名か。業種も職種も英語歴も英語を学ぶ動機も様々な様子。第一印象、全員ある程度の英語力の持ち主のように感じたが、私のように普段英語を使っているわけではない人も。レッスンは決して易しくはなかったけれども、一方で、期せずして幅広い年齢・キャリアの人達と共に学んだこともまた、私にとってこのコースでの大きな収穫だった。

スキルとともに学ぶコミュニケーション

 いわゆるビジネス英語の教材ならば、書店でもウェブ上でも山ほど目にする。よく使う表現を頭に詰め込むだけならば、独りでできるのかもしれない。ただ、5週間に渡る「ビジネススキル英語」コースで私が得たのは、使える単語や例文だけではなかった。このコースで私が強く実感したことのひとつに、言葉でのコミュニケーションを学ぶ際に、普段自分が出会わないような人と交わることで得る効果は大きい、と気づいたことがある。

 ひとつの物事に対する捉え方・考え方、それに表現の仕方も、立場や分野が異なれば変わってくるもの。日頃同じ世界の人たちとばかり接していると、つい気づかなくなってしまうのだが、年齢も職業も幅広いクラスメイトとビジネススキル英語のロールプレイを繰り返すなかで、それが異なるキャリアの人たちばかりだからこそ、気づかされたりはっとさせられたりすることが、私には少なからずあったのだ。

 レッスンでは、ほぼ毎回ビジネスの現場を想定したロールプレイを行い、学んだ表現を身につける。教材には知っている単語も少なくないが、中学校のテストのように正解をひとつ覚えていればよいわけではない。ロールプレイでは、ある時は自分が意見を述べる側だったり、あるいは交渉をうまく収める立場に立ったりもする。そこで、いざ異なる業界・職種のクラスメイトとロールプレイをしてみると、同じ設定のやりとりでも返答は三者三様、まさにそれこそ答えが決してひとつではないビジネスの現場の演習になっていた。

 一見簡単に思える質問でも、相手によっては、予期せぬ、しかし十分にありうる返事が返ってくることも。さらに一歩進んで、相手への説得や交渉を進めるスキルも学んでいくのだが、こうしたレッスンは、英語の習得とともに、異なるスタンスに立った者同士がどうコミュニケーションをとっていくかというトレーニングにもなっていることを、週を重ねるごとに私は強く感じていった。

 「ミーティング」と「ネゴシエーション」のコースで私が体験したロールプレイの設定は、例えば「若者向けアパレル広告にどういう人物を採用するか」という討議、「コンピュータ部品製造会社との値段・条件交渉」、「空港建設・運営をめぐるプロジェクトの受注」に向けた打合せなど、様々な場面の設定があった。偶然、クラスメイトにそのテーマに関わる専門家がいて、語彙や表現、業界知識の理解が広がったことも。さらに、ロールプレイで相手が返してくるアイデアや反論を通して、視野が広がることも多かった。いわば、クラスメイトとのやりとりが、英語コミュニケーションの実践を通じた異業種交流にもなっており、新たな知見に触れることができる場になり得ていた気がする。

学びについて、気づいたこと

 レッスンは毎週火曜日の夕方6時半に始まる。毎週、仕事を終えてから丸の内へ通う途中でふと考えたことがある。それは、仕事とは別の何かをしっかりと学ぶことなんてしばらくしていなかったではないか、ということだ。

 考えてみると、会社ではいくつもの仕事をこなしてきたとはいえ、一方で、あらためて興味を持って学びたい・深めたい何かに自ら取り組むことなど、いつの間にかやらなくなってきてしまった気がする。業界・職種を問わず私の世代は、しばしば忙しいことを言い訳に、自分の興味・関心について学生の頃のように取り組んでみるとか、あらためて人と交わって学ぶということを、いつの間にかしなくなってしまっているのかもしれない。 …皮肉にも、業界の変化を受けて、今さらながら英語をもう一度学んでみようと思ったところで、私はそんなことに気がついたようなのだ。

 ついこんなことを考えてしまったのは、このコースでのクラスメイトがきっかけだった。キャリアも様々、英語経験もコース受講のきっかけもそれぞれ異なる人たちが、忙しいなかで毎週夕方6時半に丸の内に集ってくる。仕事を終えた後、さらに3時間のレッスンは決して楽ではないはずだが、それだけに、その時間に懸ける熱意というのは誰しもが強い。そんなクラスメイトと席を並べていると、自分の英語のレベルがどうだとか考えている余裕もなければ、考える必要もなくなってくる。むしろ、普段会うことなどないであろう人たちと、仕事ではないところで、同じ時間・同じ場所に、同じ目標・テーマを共有することにより得られるものは大きく、気がつくと私は、そういう場に参加できていることが幸せに感じられていたのだ。

「ビジネススキル英語」コース

 私が受講した「ビジネススキル英語」コース。レッスンは3時間×5回。3時間のレッスンと聞いたときはとても長いように感じたが、ブリティッシュ・カウンシルには通常3時間クラスもあり、授業の構成はしっかりしている。多少疲れていても、長く感じることはない。また、延々とテキストを講じるわけではなく、上記のようなロールプレイの時間が圧倒的に多い。そのため、自然と目と耳と口を3時間働かせることになるのだが、個人的にこういう英語体験の効果はとても大きかった気がする。

 私が最初に参加したのは「ミーティング」スキルのコース。このコースでは、必要なフレーズを何度も発声し、覚え、そして使いこなす作業に集中した。必要なスキルの習得・トレーニングが主で、とにかく覚えさせられるレッスンはとても効果的だった。実際の現場で使える英語の習得を目指しているため、詳細な文法の説明などは少なく、英語学校というよりも <即戦力養成コース> という表現が合っているかもしれない。5週間という短期間だが、講師とメールでのやりとりが許されているので、復習して気がついたところはどんなことでも自宅から質問できたのは、とてもよかった。

 以前、友人にこの丸の内のコースはどうかと尋ねられた時、私は「とにかく、覚えなきゃいけないことを覚えさせてくれるから。」と答えた。その後に別のスキルのコースも受講したが、その質問には今でも私は同じように答えると思う。

ともに学んだ”同期”の人たちと

 初めてのコースで同期だった人たちとは、5週間のレッスンが終わった後でも交流が続いている。全員年齢も職業も違うが、英語スキルを習得する目標に向けた同じ時間のなかで、上記のようにいろいろなことを共有でき、私はいくつもの新しいきっかけを得ることができた。この同期のメンバーに私と同じ業界で働いている人はいないが、むしろビジネスの関係ではないからこそ、お互い関心が広がっていったりつながるきっかけができたのかもしれない。振り返ってみて、そんなふうに思う。

 普段であれば出会うことなどないかもしれない自分と同じ目標を持って学ぶ人たちと知り合えることは、慶應MCCのような社会人が学ぶ場でこそ得られる経験だ。今でも同期だった人たちと連絡を取り合いたまに会う機会を持っている、学んだ英語のスキルとともに、そこで得たつながりをきっかけにしたひとつの緩やかなネットワークが広がりつつあることを実感する。それが、今の私にはとても貴重なことに思える。そして、同時に、何かこうした新しく広がっていくきっかけを得られるのであれば、英語に続けて、さらにまた新しいことをこういう場で学んでいってみたいという気持ちになってくるのだ。

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