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夕学レポート

2006年07月25日

醒めているから見えるものもある 田勢康弘さん

田勢さんは政治記者一筋に38年。“日経の良心”とも言われた名政治ジャーナリストの一人です。政治記者というと、番記者から政界入りした先達(河野一郎氏、田中六助氏等)や政治家以上に政治家的な強面評論家(細川隆一郎氏、三宅久之氏等)を思い浮かべてしまいますが、田勢さんの場合、政治に極めて近いところにいながら、どこか醒めた目で、冷淡に政治を見てきたその立ち位置に特徴があるようです。それは、あるべき政治と現実の政治の埋めがたい溝の深さに、静かな怒りを燃やしてきたジャーナリスト魂ともいえるかもしれません。


田勢さんの静かな怒りを象徴する話題から講演ははじまりました。
昨年秋、自民党圧勝の総選挙の結果生まれた大量の新人議員のための、党主導の勉強会が開催されました。田勢さんも講師として招かれたそうです。その勉強会の冒頭でみた光景に呆然としたとのこと。満場の会議室に小泉首相やや遅れて登場した途端、新人議員が一斉に立ち上がり、満面の笑みで、リズムのあった短い拍手で歓迎する光景。それはかつて北朝鮮で見た金正日礼賛の光景とウリ二つだったそうです。
田勢さんは、嫌みを込めて、「あなた方の4分の3は次回の選挙で落選するでしょう。選挙で落ちればタダの人というが、それは間違い。議員バッチをつけた経験のある人を採用する企業などどこにもない。落選すればタダの人以下の環境が待っていることを忘れるな!」と話したそうです。
駆け出し政治記者と福田家の書生兼下足番として出会って以来40年近い交流のある小泉首相に対しても、その人柄をよく知り抜いているからこそ言える表現で論評してくれました。
田勢さんは、小泉政権の政治的評価は10年以上経ってはじめて定まるものだとしたうえで、小泉政権の5年で間違いなく変わったのは「政治の風景」だといいます。
景気対策のために財政出動を口にする人が、政治家・経済人・マスコミ含めて誰一人いなくなったこと。
朝鮮総連本部に警察捜査の手が入るほど世の中にタブーがなくなったこと。
総裁戦2ヶ月前の現時点でも、お金が動いている気配がまったくないこと。
いずれも5年前までは想像すら出来なかった「政治の風景」だそうです。
この変化は間違いなく小泉さんがもたらしたものですが、けっして高邁な理想ゆえのことではなく、「人の気持ちをまったく考慮しない」「周囲の目を一切気にしない」筋金入りの変人だからこそのことであって、けっして立派な政治家とは言えないというのが田勢さんの小泉評でした。
また、安倍政権が実現した場合、直面すると言われているアジア外交についても率直に持論を展開してくれました。
安倍さんが首相になる方が日中関係は良くなるだろうという意見です。
・ 安倍さんはきっと靖国には行かない。
・ でもけっして「参拝しない」と明言することはないだろう。
・ むしろ、突然中国を訪問するのではないか。
・ その時には、「日本の首相は靖国には行かない」「中国には歴史問題を蒸し返さない」という裏交渉が成立しているに違いない。
・ 同じことを福田さんがやっても効果はない。安倍さんだからこそサプライズがある
という見立てです。さてどうなるでしょうか。

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