KEIO MCC

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夕学レポート

2006年10月23日

トップコンサルタントの仕事術 内田和成さん

内田さんの著書『仮説思考』は20代後半から40代半ばのビジネスパースン層に読まれるであろうという“仮説”に基づいて書かれ、実際にその年代層が多く購入したようですが、予期せぬ読者層として、一括まとめ買いという特異な購入形態をとった人達がいたそうです。企業経営者や役員の方々です。
内田さんによれば、そういう方々が異口同音に発したのが「常々自分が考え、実践してきたやり方を的確に表現してくれた」という言葉だったとか。
このことからも、仮説思考というのが、仕事ができる人・早い人・的確な人が、経験的に身につけてきた発想術だということがわかるかと思います。


内田さんは「仮説思考とは、答えからはじめる発想法である」と定義しています。
元サッカー日本代表監督のハンス・オフトは、対戦相手の作戦や選手の動き、試合展開を的確に予測する名人で、“オフトマジック”という異名をもっていましたが、ただのヤマ堪ではなく、事前偵察に基づいた科学的予測であることを強調していたそうです。
また、夕学にも登壇いただいた将棋の羽生善治さんは、「無数にある打ち手の中から、直観的に絞り込んだ2から3の打ち手だけを徹底的に読むほうが、すべての打ち手を読むよりはるかに効率的だ」と断言しています。
内田さんによれば、オフトや羽生さんのやり方は、仮説思考的な考え方だそうです。豊富な経験によって裏付けられた直観を頼りに、まず答え=仮説を設定し、それが合っているか、間違っているかの検証作業を後から行うやり方です。
内田さんは仮説思考のメリットを3つあげてくれました。
1.情報洪水に溺れないですむ
情報は集め出したらキリがないので、情報収集からはじめると、それだけに時間を奪われ、肝心の考えるフェーズに時間を割くことができなくなります。仮説思考はこれを避けることができます。
2.仕事のスピードアップ、質の向上、効率化ができる
限られた時間で、最高の答えを出すことが求められるコンサルタントにとって、いち早く本質をつかみ取ることは必須の能力であり、仮説思考を使えばそれが可能になります。
3.他人に仕事がみえるようになる
まず答えは何かを明確にするので、正しいかどうかが早くわかり、周囲からのアドバイスも得やすくなります。当然、万が一仮説が間違っていても、早期軌道修正が可能になります。
内田さんは若手のコサルタントに対して、3ヶ月程度のプロジェクトに取り組む際には、「まず二週間で答えをだしてみろ」と指導するそうです。
数多くの経験から言えることは、2週間で作った最初の答えと三ヶ月かけてたどりつく最終回答とほとんど変わることがないという事実です。
また、仮説思考の具体的なやり方として、ボスコンのコンサルタントが使う「空パック」というやり方を紹介してくれました。
これは、「空パッケージ」の略で、中身が埋まっていないスライドがたくさんあるパッケージの意味です。 結論-理由-対策までの全体ストーリーがラベルだけで中身がない状態で用意されたものでしょうか。言いたいことは明快でもまだ根拠が整理されていない状態といえるかと思います。
ボスコンのコンサルタントは、「空パック」をつかってまず全体ストーリーを決めてから、それに合わせて分析をすすめ根拠を立証していくのだそうです。
また、内田さんは、仮説を豊かなものにするためのノウハウとして、「20の引き出し」を心がけているそうです。
これは、いわば「ネタ帳」のようなものです。「仮説思考」「右脳思考」「パラダイムシフト」など気になっているテーマを「引き出し」として定めておいて、それにあてはまる事例やネタを「ファイル」として格納しておくというものです。冒頭のオフトマジックや羽生さんの事例は「仮説思考」という引き出しに入っている「ファイル」の例です。内田さんは、20の「引き出し」に20の「ファイル」があるので、合計400のネタを持っていることになり、仮説思考の潤滑油として活用しているそうです。
役に立つ理論や手法には、目から鱗が落ちるような、新たな視点を提供してくれるものと、自分がなんとなくそう思っていたことが理論化されていて「そうそう!」と思わず膝を叩きたくなるようなものの二つがあります。仮説思考は、後者の典型的な例として、私のネタのひとつに加わりました。

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