KEIO MCC

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夕学レポート

2006年10月30日

「使える会計学」 山根節さん

個性派が多いKBS教授陣の中にあっても、山根先生のキャリアは際だっています。
公認会計士、コンサルタントとして20年近い実務経験を持つ一方で、博士号を修得、現在は日本を代表するMBAで経営を教える。いわば、会計と経営のプロ中のプロと言えるでしょう。
それでいて、Papasのコーデュロイスーツをさらりと着こなし、カーオブザイヤーの選考委員を務めるほどの自他ともに認める「自動車オタク」でもあります。
そんな山根先生が、重要視しているのが「使える会計学」です。
その普遍的必要性を誰もが認識しながらも、専門知識の壁に立ちつくし足がすくんでしまいがちな会計の世界に、「そんな難しく考えないで、どんぶり勘定でもいい。 大局をつかみさえすれば使えるのだよ」という暖かいメッセージを発信してくれます。
会計と経営の専門家から、そう断言してもらえると会計アレルギー罹患経験者の私も勇気づけられる思いがします。


山根先生は、毎年日経新聞が発表する上場企業の「経常利益ランキング表」を注視しているそうです。
このランキングの経年推移を通して、世の中を鳥瞰できると考えているからです。
山根先生が「産業マップ」と呼ぶ、経常利益額の大小と経常利益率の高低を2軸にとったマトリックス分類でランキング企業を整理してみると、産業の潮流が読み取れます。
今年なら、自動車産業がダントツの強さを発揮、バイオは相変わらず好調、エレクトロニクスは企業間格差が明確、鉄鋼や商社の復権が目立つ一方で、情報通信の成長性に陰りが見える、といった具合です。また利益率のランキングからは、バイオ、エンタテイメント、電子デバイス、金融といった産業の高収益性が浮かび上がります。
山根先生は、更にここに登場する企業の財務諸表から読み解ける当該企業のビジネスモデルを解説してくれました。
わかりやすく言えば「何で儲けているのか、何にお金を使おうとしているのか」という企業戦略の推察です。
例えば、復活なった新日鐵の財務情報を分析してみると利益の源泉が販売価格の値上げと高級品分野へのシフトにあることがよくわかるそうです。
その事実に、マクロな定性情報を組み合わせてみると中国経済の成長がもたらす原材料費の逼迫要因を価格転嫁に成功したことや、元気な日本の自動車産業向けの高級鋼材へ思い切って注力した経営戦略が効を奏していることが認識できるそうです。
また、消費者金融大手アコムの財務諸表からは消費者金融のビジネスモデルがみてとれるそうです。
BSに記載される営業貸付金(もとで)1.7兆円に対して、PLに記載される営業収益(儲け)は4,450億円。単純計算すると平均利率26%で貸付けていることがわかります。
昨今話題のグレーゾーン金利の下限は20%であることを考えると、今後6%の収益減が予想されます。先程の計算式にあてはまめると約1000億円の減収が避けられないことになりますが、税引き前利益が1400億円もあることを考えると、以前として500億円近く利益を確保できることが想定でき、経営が揺らぐことはないだろうということが予想できるそうです。(ちなみに今期は過去の利息返還金を一括償却するので大幅赤字になると発表されました)
山根先生は更に、消費者金融の高収益体質を支える人々(=顧客)は誰かに関心を移します。
様々なデータから、フリーターを含む若年層や主婦が主な利用者であることを確かめ、先述の利益率ランキングと重ね合わせてみると、彼らがそのお金を携帯電話やパチンコ、ブランド品などの消費していることがわかるそうです。
「社会的な生活基盤が弱い人々が消費の下支えをする」現代日本のゆがんだ経済構造の一端が垣間見えてきます。
山根先生の関心は、したたかな大企業群にも向けられていきます。
例えば、トヨタの財務諸表からは、トヨタの違う一面が読み解けるとのこと。
BSの資産の部をみると、総資産29兆円の三分の一以上、12兆円が金融資産に投下されていることが目につきます。
PLでも事業別の利益率をみてみると、自動車産業の営業利益率は8%であるのに対して、金融事業のそれは20%を越えています。
これらの会計情報に、トヨタをめぐる昨今のニュースを重ね合わせると、彼らの金融事業に対する高い関心が想定されるそうです。
さらには、G-BOOKやETCサービスといった情報通信への開発投資を関連づけると、売り切り型販売モデルから自動車利用を核に、生活のあらゆる場面に関わる総合金融モデルへの挑戦を考えていることがはっきりと読み取れるそうです。
山根先生のビジネスモデル解説は、ユニクロ、楽天、一休、テイク&ギブニーズといった新興ベンチャーにも触れましたが、具体的な中身は近著『なぜあの会社は儲かるのか』を見ていただくとして、最後のまとめをさせていただきます。
山根先生は、冒頭で福澤諭吉の言葉として、「情報とは“情け”&“報せ”である」と紹介してくれました。簡潔に記せば、情報とは無機質なものではなく、人間の匂いがぷんぷんする生臭いもののはずだということでしょうか。
会計情報とは、フローとストック両面でのお金の状況を通して、生身の人間がつくる戦略・志向に思いを巡らすことができる使い勝手のよいツールだということです。
そのためには会計情報をそれ単体で理解しようとするのではなく、さまざまな情報と組み合わせなければなりません。
「お金の動きという平面な世界に、断片化されて存在する定性情報を載せ、立体化することで企業の実像が浮かび上がってくる。それができることがビジネスリーダーの会計リテラシーである」
「使える会計学」を一言で解説するとこうなるでしょうか。

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