KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2006年11月29日

M1層のホンネを掴む 藤井大輔さん

“人材輩出企業の雄”と言われるリクルート社からは、多くの起業家や社会イノベーターが産まれています。
夕学にも多くのリクルート出身者・現役社員が登壇してきました。指折り数えてみたら、今期の藤井さん、大久保さんを含めてその数なんと7人。夕学にとっても、リクルートは、実務家講師の最大の供給源です。一民間企業としては特出すべき実績になります。
本日の講師、藤井大輔さんもリクルート遺伝子の伝承者として、その系譜を継ぐ者のお一人です。
リクルートが年に一度行う新事業開発コンテスト「Newリーグ」から生まれたM1層向けのフリーマガジン構想を『R25』という形にして実現し、大成功を収めた若き編集長です。


『R25』の新奇性は「活字を読まない、行動しない、消費しない」と言われ、リクルート情報誌にとって暗黒地帯だったM1層(男性20~34歳)を見事に開拓したところにあります。
藤井さん達が読み解いたM1層のプロフィールは
「情報に敏感で、多忙な中、時間を有益に活用したがる」
「自分の価値に一番関心があり、自信過剰でカッコつけ」
「そこそこイケてると思っているが、確信は持っていない」
「顔には出さないが不安感がある。だから実は助言が欲しい」
というものだそうです。
M1層の平日の行動パターンは
「起床後10分で駅に向かい、満員電車のストレスに耐え、日経新聞を3分で読み飛ばして仕事に取りかかり、昼にはヤフートッピックスで情報をチェック、8時頃までまじめに仕事し、帰宅後はコンビニ弁当を食べながら、TVとパソコンを同時に眺める」とか。
会場では、M1層と思しき何人かの受講者が、思わず苦笑しながら聞き入っていたところを見ると、かなり的を射ているようです。
『R25』は、そんな彼らに向けて、知っているようで知らない知識を、800字のコンパクトで分かりやすい記事に仕立て、帰りの電車で読み終えることにこだわり、コンビニ商品や本の購入につながるように編集に工夫をこらすことで、「読ませる、行動させる、消費させる」ことに成功しました。
個人的に俊逸に感じたのは、M1層を5種類の犬に例えたターゲティング分析でした。
藤井さん達は、大規模なネット調査によって、M1層の情報接触態度を調べたそうですが、当初くっきりと見えたのは、「情報にまじめな成犬」と「情報を自分であさる野良犬」の2パターンの2極化だったそうです。
これを素直に解釈してしまったら、『R25』のヒットはなかったかもしれませんが、藤井さん達は、ここで満足せずに、ヒアリング調査を続けながら、「まじめな成犬」を装う「情報消化不良のやせ犬」層が潜在的なマジョリティではないのかという実像を紡ぎ出したそうです。これが、「“変わらなきゃ”という気持ちを勇気づけ、応援する」と『R25』のコンセプトにつながりました。
講演の中で、藤井さんが触れた「インサイト」という言葉は、消費者心理の新しいキーワードとして注目されています。
奇しくも先週の夕学では須藤実和さんが、顧客の財布のヒモをゆるめる「口説き文句」という言い方で「インサイト」に言及していました。
アンケート調査にせよ、グループインタビューにせよ、消費者は調査に対してストレートにホンネを明かしてくれるとは限りません。
消費者が表立って話さない、時には気づいてさえいないホンネに迫ることができるかどうか。それがマーケティングのKFSだと言われています。須藤さんは、コンサルタントらしく「インサイト」創出プロセスを理論立てて説明してくれましたが、その生きた事例が『R25』の開発の裏側にあったことがよくわかりました。
藤井さんは、モバイル版『R25』に続いて、女性版『L25』を創刊しました。
更には『R45』、『R60』など世代を広げたり、大阪、名古屋など地方への展開を検討したり、藤井さんの眼前には、やりたいこと、やれることが山積していてどれから手をつけてよいか分からない程だとか。
何かをやりたいけれど、何をやったらいいか分からない人が圧倒的な世の中にあって、贅沢な悩みではとやっかみたくなりますが、藤井さんも最初のMI層向けフリーマガジン構想を任された時には「絶対に失敗する」と思ったそうです。
あきらめずにやってみることが最初の一歩かもしれません。

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