KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2006年12月05日

「エンタテイメント(感動)経験をデザインする」 稲蔭正彦さん

「コンテンツは王様である」
これはITやネットワークの世界で語られる有名な言葉だそうです。
CGを駆使したファインアートの創り手として、またプロデューサーとして、ハリウッドを含めて国際的に活躍してきた稲蔭先生の講演は、この言葉で始まりました。
「デジタルエンタテイメント」というワードからすぐに連想されるのは、「通信と放送の融合」問題です。新しいIT技術とネットワーク環境の整備によって、映画・テレビ・ゲームといった既存コンテンツがデジタル化され、自由に流通される。消費者にとっては便利だが、制作者サイドでは知財保護や課金システムなどの課題がある...といった連想が働いてしまいます。
稲蔭先生は、既存コンテンツのメディアチェンジは重要ではあるけれど、本質的な問題ではなく、むしろテクノロジーの進化によってはじめて可能になる新しいコンテンツが生まれるかどうかがこの言葉の含意であると説明しました。
良質なコンテンツには必ず「予測と裏切り」がセットされているそうです。
ヒットするコンテンツには、「この次はきっとこうなる」という予測可能な安心・安定を提供しながら、ポイントで、あっと驚く裏切りや意外性を埋め込まれているもので、その組み合わせの妙が決め手になるとのこと。ハリウッド映画はその典型だと言います。
例えば『マトリックス』は、テクノロジーオリエンテッドの発想で生まれた「予測と裏切り」の最新系で、新たな技術により「まさか、こんなことが」と思えるような世界を表現することで画期的な「予測と裏切り」を提供しました。
しかし、稲蔭先生によれば、テクノロジーオリエンテッドの「意外性」は長続きしないし、むしろ最新テクノロジーを利用はしても、それに頼らず「意外性」をまったく別の方法で表現できるかどうかがキモになるそうです。
このあたりは、高度MPU「セル」を駆使した高解像度をウリにするソニーの『P3S』と『DS』や『Will』でゲームの新領域を開拓することに成功している任天堂の戦略を対比させるとなにやら暗示的ですね。


さて、稲蔭先生は「エンタテイメント」という言葉を「娯楽」というプロトタイプの訳ではなく、「楽しさ、心地よさ」という本来的な意味に着目して理解すべきだと言います。
そのうえで、仕事から家庭まで生活全般に渡ってデジタルコンテンツに囲まれて生きることになる我々にとってもっとも重要なファクターが「エンタテイメント」(楽しさ、心地よさ)であると断言されました。
アルビン・トフラーをはじめ、多くの識者が使う社会構成概念のパラダイムシフトの考え方によれば、産業革命によって実現した農業化社会から工業化社会へのパラダイムシフトは「より早く、より多く、よりきれいに」といった効率化の価値観によって支えられる社会を創出しました。
現在IT革命によって実現されようとしている工業化社会から知識社会へのパラダイムシフトは「より楽しく、より心地よく」というエンタテイメント性の価値観が起点になる新しい社会を創造するだろうと言われています。
稲蔭先生は「より楽しく、より心地よく」を創り出す行為を「デザイン」と呼ぶべきだといいます。
仕事から家庭まで社会生活全てにおいて、エンタテイメントを隠し味として埋め込んだ新たなモノ・コトを創ること、それが「デザイン」だということです。
稲蔭先生は、エンタテイメントの楽しみ方も変わってきていると考えています。仕事と娯楽、日常と非日常等々「ON-OFF」二元論ではなく、その境界領域に着目し、小さなエンタテイメント性を巧みに散りばめた「デザイン」が受け入れられるとのこと。
働きながら楽しむ。勉強しながら楽しむ。食べながら楽しむ。ザッピング的な「ながらエンタテイメント」が重要だそうです。
若い女性達が事あるごとに口にする「カワイイ~」ということば。いまや「カワイイ~」は世界共通語化しつつあるそうですが、日常の中に埋め込まれた、ちょっとしたセンスや工夫を「カワイイ~」と評価する感性こそが、これからの「エンタテイメント」にとって最も重視すべきものだとのこと。
「様々な生活シーンの中に「楽しく」のコンセプトを導入すること」
「楽しさ、感動を体験するための意図的な経験をデザインすること」
デジタルエンタテイメントが目指す本質はそこにあると稲蔭先生は考えているそうです。
講演では、単なる概念ではなく、実際に稲蔭研究室が開発したいくつかの作品も紹介してくれました。
<呼吸する照明>
http://surroundings.sfc.keio.ac.jp/2006/creatures.html
<影が動く障子>
http://www.imgl.sfc.keio.ac.jp/papyrus/
皆さんも機会があれば体験してみてください。
最後に、稲蔭先生が考えるエンタテイメント経験を創りだすキーワードは下記のようなものです。
「空間」
デザインの対象は既存メディアだけでなくあらゆる空間が含まれます
「身体性」
身体全体で楽しめることが重要。任天堂の『Will』はこの点でフィット
「五感」
音・色・香・味・触り心地すべてがエンタテイメントの素材です。
そこで実現するエンタテイメントには「参加性」「インタラクション」「コミュンケーション」が含まれている必要があるとのこと。「なるほど」という感じですね。

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