夕学レポート
2006年12月06日
「相利共生」をめざして チャールズ・レイクさん
7日の日経新聞【春秋】欄は、ロンドンの金融街シティーの話題でした。空前の活況に沸き立ち、日本円で2億円以上のボーナスを受け取る金融マンが4千人以上いるとのこと。しかも英国人だけではなく、米国はもちろん、ロシア、中国など世界中から人材が集まっています。今年の企業買収や株式新規公開の取引額はロンドンがニューヨークに圧勝したそうです。高成長マーケットである中近東、アジアに距離的に近いのが最大の勝因と紹介されていました。
この記事にはありませんが、世界から人材とマネーを引き寄せるシティーの磁力は地政学的な理由だけではなく、そうなるように意図した政策(法整備・インフラ整備・人材配置)の効果だというのが、きょうの講師チャールズ・レイクさんのご指摘のひとつでした。
3歳~15歳まで日本に在住し、アメリカンスクールではなく、日本の学校で義務教育を修めたレイクさんは日本人以上に日本のことをよく知っている知日派米国人です。
一方で90年代には米国通商代表部特別補佐官として日米貿易摩擦交渉の実務に携わったハードネゴシエイターでもあります。きょうのプレゼンテーションは、随時全体のアジェンダを示すことで、現在の位置取りを確認しながら、分かりやすいデータに裏付けられた論理的な主張を展開する説得力溢れるものでした。米国ビジネスエリートのプレゼンテーション見本を示してくれたような気がします。講演の中でレイクさんが使った言葉をお借りすれば、まさに「ベストプラクティス」でした。
日本と米国の良いところを身につけ、逆に言えば双方の欠点もよく理解したうえで、日本在住の親日派米国人の代表として、日米関係をよりよくしていこうと志をもって活動をされていることがよくわかりました。
きょうの講演は、レイクさんが会頭をつとめる在日米国商工会議所(ACCJ)が先頃まとめた「ACCJビジネス白書」の提言に重なるものでした。
ACCJは、レイクさんが日本における代表を務めるアフラックをはじめ、GE、P&Aなど日本で活動する外資系企業1400社以上が加盟する日本最大の在日外国企業組織だそうです。
「ACCJビジネス白書」のコンセプトは“相利共生”(英語に訳すとWorking together Wining together )。
学者やシンクタンクの研究員に委託するのではなく、日本で成功した外資系企業のトップや実務家に得意分野を執筆してもらうことにこだわり、文字通り「Win-Win」を目指して、「日本はこれから何をすべきか」を、日本をよく知っている企業人が政策提言するものだそうです。
この「ACCJビジネス白書」の中でも、レイクさんが特に取り上げて強調されたのが、日本の金融制度改革に関わることでした。
「金融ビッグバン」が提唱されてから10年。東京をニューヨーク、ロンドンに並ぶ国際金融センターに育てようと唱われたこの構想は、いまも遅々として進んでいないとのこと。モデルとされた英国のビッグバンが冒頭のシティー隆盛に繋がったことと対比するとその違いが歴然であるとレイクさんは言います。
英国と日本の違いが、経済活動全体の開放性や硬直性にあるのならいざしらず、英国の経済力そのものは「緩やかな衰退の世紀」と揶揄されるほど存在である一方で、自動車やエレクトロニクスに代表される日本の製造業は、世界中に生産拠点と販売網を広げ、グローバリズムの忠実な推進者です。
にもかかわらず、金融市場だけが規制保護を受け、閉鎖的であり続けることへの苛立ちが募っているようです。
また、対日直接投資ももっと伸びていいはずだとレイクさんは言います。対日直接投資残高のGDP比率は、現在2.2%。フランス28.5%、中国14%などと比べて特出して低い水準にとどまっているそうです。
金融法制や税制などさまざま制度の遅れがその障害になっているとのこと。
総論賛成・各論反対を繰り返す日本の金融制度改革。ペリー提督を天狗のごとくにデフォルメしたエキセントリックな幕末の対外国人感覚を、平成の今日も引きづったままでいる日本の閉鎖性。
日本人以上に日本を愛する米国人であるレイクさんにとって、経済活動のすべてが日本国内で完結しているかのような錯覚から抜け出ていない日本人の精神性が我慢ならないのかもしれません。
講演の中では、あくまでも前向きな日米関係を提唱されていましたが、控え室では「状況はきわめて深刻な状態だ」という認識を漏らしていらっしゃいました。
日本があくまで閉鎖的であろうとするのならば、もうそれでいい。アジアにはシンガポールも上海もあるのだから...という日本見限り論が米国には広がりつつあるそうです。
米国の有名ビジネススクールでは日本人学生を受け入れなくなりつつあるという声を聞くこともあります。自由経済を推進するうえにおいて、米国にとって、アジアで唯一絶対のパートナーであったはずの日本が、その地位を失う日。それが眼前に迫っているのかもしれません。
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