KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2007年01月26日

「不特定多数無限大への信頼」 川崎裕一さん

『ウェブ進化論』の著者で、「はてな」の取締役も務める梅田望夫氏は、これからのネット社会を切り拓くのは「1975年以降に生まれた人」だと言います。
「はてな」社長の近藤淳也氏やミクシィの笠原建治氏など団塊ジュニアにあたる世代で、きょうの講演者川崎裕一さんも同世代人です。
講演は、まずこの世代がなぜ新たなムーブメントを起こすのか、梅田氏等が主張する世代論の解説から入りました。


「1975年以降に生まれた人」はバブル崩壊後の閉塞感に満ちた時代に自我確立期を迎え、社会がどうなるのかという変化に敏感な人が多いと言われています。
ことに1995年のインターネット元年を20歳で体験し、PC=インターネットを何の障害もなく受け止めることが出来た点に大きな特徴があるそうです。
ネット普及がはじまった頃、「パソコンが、高度高速計算機から情報探索・思考ツールへとその意味付けを変えた」と盛んに喧伝されましたが、彼らはそのパラダイムシフトをくぐり抜ける必要もなく、素直にネットの世界に入り、世界が簡単につながることに感動し、ネットが切り拓く可能性に夢見ることが出来たというわけです。
また90年代後半のITバブル前夜に起きたビットバレーの狂騒を、その実相を知ることや疑うことなく、健全な憧憬をもって、まぶしく眺めていた若者たちだったとのこと。
後述しますが、「はてな」の企業価値観のひとつであり、梅田氏が「ウェブ2.0」を特徴づける概念として強調する「不特定多数無限大への信頼」という価値観はこうした世代背景の中で生まれました。
「はてな」という会社は、人力検索サービスからはじまっており、大衆の「検索」というニーズに応えることをビジネスの根幹に据えています。この点ではGoogleと同じでしょう。
川崎さんによれば、「検索」というニーズは、ネットの世界でユーザーのニーズが存在しながら技術がそれに対応できていない領域だったとのこと。
Googleはいち早くこのニーズに対応し「世界中の情報を組織化し、それを誰もがアクセスできるように整理・加工する」というミッションを打ち立てて成功したと言われています。
Googleに一歩遅れるようにして創業した「はてな」は、そこに「人間を介在する」という原理を加えた点に特徴があったようです。
Googleの検索サービスはすべてアルゴリズムに則った機械仕掛けの仕組みですが、「はてな」の提供するサービスには、「他人の情報」「他者の評価」が重要なファクターとして組み込まれています。
近藤さんがどこまで意識したかはわかりませんが、「間人主義」などの概念で説明されるように、人と人との関係性に価値を置く日本的な社会構成思想が反映されているのかもしれません。
さて、川崎さんが紹介された「はてな」の行動規範・価値観は次のようなものです。
1.最速・または最高
サービスを提供する際には、他のどこより速くなければならない。そうでなければ他を圧倒する最高のものでなければならない。
2.情報公開
情報は本質的に自由で、他と繋がりたいという性質を持っていることを信じ、すべてを公開することで価値増大をはかる。
3.アイデアだけに価値はない
アイデアを思いつく人間は世界中にたくさんいる、それを最速or最高のサービス(商品)に作り上げなければ意味はない。
4.不特定多数無限大への信頼
顔を知らない無数の人々と繋がることで起きる「混乱」よりも「創造」に価値を置く。やがて自動秩序が形成されて不届き者は排斥されるはずだ。
5.安定、高速、簡単
安定しているけども遅い。高速だけれども難しい。簡単だけれども不安定はだめ。三つのニーズをすべて満たすことが条件
シンプルな表現ですが、社員の行動規範として、新たなサービスを開発する際の判定基準としてきわめて明確な指針になる言葉です。
また、上記の行動規範・価値観に加えて、経営として大切にしているのは次の三つだそうです。
1.売上は選ぶ
売上は伸ばすものではなく選ぶものだ。価値観にあった売上拡大こそが重要だ。
2.質素倹約
無駄なお金は使わない。(確かに彼らは六本木ヒルズにはいませんね。)必要とあらば一気に使う。
3.家
居心地のよいところにいること。そうすれば自然と売上は伸びる。
川崎さんは、「はてな」の基本思想を紹介する意味で次のような説明をしてくれました。
「利益率は65%あるけれど、単価は10円で、大量生産は不可能、市場にいくらでも流通しているものを商売にしようと思いますか? 「はてな」はそれをやっている会社です」
単価10円であっても、市場から1億個集めて販売すれば6億5千万円の利益を稼ぎ出せる。
それが、はてなのビジネスです。
ロングテールというのは、こういうことなのだと改めて感じ入った次第です。

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