KEIO MCC

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夕学レポート

2007年04月26日

それで本当に大丈夫か 淡輪敬三さん

淡輪さんに夕学にご登壇いただくのは、今回で2度目になりますが、華麗な経歴とは対称的に気さくなお人柄です。
かつての戦略系コンサルのトップの特徴だった有無を言わせぬ威圧感もなく、スッっと相手の懐近くに入って、同じ目線で議論ができるタイプの方です。
控え室では、そんな人間性に甘えて、最近の人材マネジメントコンサルティングでは、どんなテーマが多いのか聞いてみました。
即座にお答えになったのが「人を育てる仕組みの再構築」でした。
かつての日本企業(大企業)は、次長とか代理の肩書きが付いたベテランや部下を持たない部課長など管理職層が厚いのが組織的な特徴でした。
彼らは、若手社員に対する教育係や鬼軍曹に役割を担い、突発事項の際にはトラブルシューティング役を引き受けたりしていました。
当時は、その肥大化と無駄が強調され、フラットでスリムな組織に変わったわけですが、彼らの役割は「職場において、仕事を通じて人を育てる」という点においては重要な意味がありました。
その機能がなくなった組織で、「人が育たない」という問題が生じはじめ、「人を育てる仕組みの再構築」がテーマになっている、というわけです。
“無駄を削ぎ、筋肉質に変わったゆえに起きるパラドクス”
実は、きょうの講演主題である「多様性の活用」も、同じ問題をはらんだやっかいな問題なのではないか。終始明るいトーンで進んだ淡輪さんの話の裏には、そんなブルーなメッセージも込められているような気がしました。


淡輪さんの話は、ワイアット社が中心になり、228社から回答を得てまとめた「人材マネジメントの価値観」調査の結果解説からはじまりました。
各社の調査結果を、縦軸に「組織・業務・キャリアのデザインの仕方」を、横軸に「方向性を決めるうえでの意思決定基準」を取り、座標軸上にマッピングをします。
上下の対称は「分散型デザイン」か「集権型デザイン」か、左右の対称は「個人の自律性重視」か「組織ミッション重視」か、と名付けてみたところ、各企業の位置は、ほぼ全体に散らばったそうです。
分析した結果をひと言で言うと「企業もいろいろ」とのこと。
例えば、楽天は「分散型デザイン」かつ「組織ミッション重視」の体育会型
大手都銀は「集権型デザイン」かつ「組織ミッション重視」の伝統日本型
ソフトバンクやソニーは「分散型デザイン」で「個人の自律性重視」のプロフェッショナル型
ユニクロ、リクルートは「集権型デザイン」で「個人の自律性重視」のコミュニティ型
日立、ベネッセ、花王などは、真ん中に集まる、新日本型という具合です。
とはいえ、潮流は読み取れるそうで、日本企業の多くは、「組織ミッション重視」から「個人の自律性重視」に移行していることに間違いはないようです。 また、その中でも大多数の企業は、集団の力を重視しつつ、個の自律を志向するコミュニティ型を志向していくのではないか、
ルビコン川を渡った少数派だけはプロフェッショナル型を突き詰めていくだろう、ということです。
「日本企業の強み・良さを活かしつつ、個の自律をバネに組織を変革していこう」という、現在の人材マネジメントの潮流が現れた結果なのですが、果たして、それで本当に「多様性の活用」はできるのか、というのが、淡輪さんの抱く一抹の不安でもあります。
さて、そもそも、なぜ「多様性の活用」が必要なのかという点ですが、淡輪さんは、日本の人口減少予測のグラフを示しながら、簡潔に指摘してくれました。
2050年(43年後)には、現在1億2000万人の我が国の人口は9000万を割る。そして高齢者比率は20%→36%に進行するそうです。これは65才以下の人口が1億人から5800万人に激減することを意味し、日本市場は40%減というとてつもないシュリンク状態に陥ることになるそうです。
マーケットが急激に縮小することは分かっている以上は、外部マーケット=海外への依存度を更に高めていかないと立ちゆかない。その時日本人だけの純血主義は必ずマイナス要素になる。だから「多様性の活用」を進めなければならない、というわけです。
この話は、誰もが頭では分かっていることですが、実は、日本というマーケットの規模と減少スピードの問題は、淡輪さんの抱く危機感の中核に関連する点だそうです。
つまり、韓国のようにマーケット規模が小さい国では、企業は最初から世界市場を見据えて、それに相応しい経営システムを構築できるが、日本のようにマーケット規模が中途半端に大きい市場を相手にしていると、外に向けた対応がどうしても出遅れてしまうということです。俗に言う「ゆでカエル」現象です。
「日本企業の強み・良さを活かしつつ、個の自律をバネに組織を変革していこう」という、現在の人材マネジメントの潮流は、確かに現時点では、多くの勝ち組企業が選択した方向性です。しかしながらそれを決定した企業経営者は、2050年には生きてはいません。
いまの選択が、「ゆでカエル」を生まないと誰が保証してくれるのか。ソフトな語り口に込められた淡輪さんの問題提起は、意外と苦い気付け薬なのかもしれません。

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