KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2008年02月13日

日本よ産業国家たれ 寺島実郎さん

寺島実郎さんは、この10年間一貫して在野にありながら、日本の論壇に確固たるポジションを確立した言論人です。
リベラル・ハト派の立場を鮮明に、政治、経済、国際関係と幅広い分野で提言を行い、特に米国に対しては、派に衣着せぬ厳しい論調で迫ることもしばしばです。
それでいて、かつての「進歩的文化人」や「朝日・岩波文化人」と呼ばれた左翼系知識人とは異なり、商社マンとして長らく米国に在住し、グローバルビジネスの最前線で生きてきた生粋の経済人だけに、その発言には重みと説得力があります。
世界を歩いて自分の眼と皮膚感覚で掴み取った変化を、各種データを確認することで裏付ける。
またデータから表象的に現象を語るのではなく、数字を一度飲み込み、その意味を消化したうえで、歴史的な文脈に位置づけながら分析する。
総合商社の国際情報分析官として鍛え上げた骨太の評論が魅力です。


今回の夕学では、世界の潮流として、まずアジアダイナミズムを取り上げました。
その中心にあるのは、自ずと知れた中国の台頭です。
戦後、日本にとって経済的に最も関係の深い国はアメリカである時代が続いてきました。
ヒト・モノ・カネの動きを表す各種データをみると、2007年は、ついに中国がその位置を取って変わった年だった言えるそうです。
もはや、「くしゃみをすると日本が風邪をひく」国は、米国ではなく中国になったのかもしれません。
アジア以外にもロシア、オーストラリアなど資源大国の成長は顕著で、世界同時成長を牽引しているのは、先進国ではなくなりました。
また、マネー経済の過剰成長も世界潮流を語るうえで欠かせない要点です。
寺島さんはこれに対しては、疑問符付きの見解を貫いています。
例えば、金融立国として復活なったと賞賛される英国に対して、「本当に復活したと言えるのか」と疑問を投げかけています。
上場企業の4割近くが外資の傘下にくだり、自動車メーカーも電力会社も英国資本は壊滅状態になった。製造業から金融・サービス産業へ産業構造が転換したと言えば聞こえはいいけれど、果たしてこの10年、英国から時代を拓くような技術革新は生まれたのか。
「産業を犠牲にして成長を取る」それは本当に復活なのか。
日本にとっての次代のモデル国家に英国をあげる識者が多いだけに印象に残ります。
この疑問は、そのまま日本にも向けられていると言えるでしょう。
日本人が額に汗して貯めたお金は、日本の産業に回らず、低金利を嫌って外国に逃げていく。
やがて、世界中で起こっている過剰流動性の奔流と合流して、マネーゲームという制御不能な渦に注ぎ込まれていく。
行き場を失ったマネーが、原油高や世界同時株安という津波になって、日本に襲いかかっている。
グローバリズムの名のもとに、そういう世界に入っていくのが日本の正しい進路なのか
そんな問題意識です。
「日本は、あくまでも産業国家であるべきだ」しかも、輸出一本槍の伝統的な製造業モデルに固執するのではなく、日本の富を日本を豊かにするために使うべく、新しいものづくり産業を確立する必要がある。
それが寺島さんの主張です。
新しいものづくり産業を確立するためには、1500兆円を超える個人金融資産を如何にして消費に回すかという知恵が問われていると寺島さんは考えています。
「2地域住居」の促進やポスト自動車のプロダクトサイクルを目指した小型ジェット機産業への期待など、いくつかの具体案も紹介していただきました。
それらの具体案をどう受け止めたかは人それぞれであったかと思います。
しかしながら、これからの豊かさは物質や消費ではなく、精神や生産によってもたらされることは間違いありません。
何に、どうやってお金を遣うのか、その知恵を問われているのは、識者ではなく、我々自身です。

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