KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2008年04月22日

現場で磨いた人脈力 藤巻幸夫さん

一週間ほど前、慶應MCCでも教えていただいている法政大学大学院の高田朝子先生から、ビジネスパースンの「人脈」についての実証研究成果を聞く機会がありました。
高田先生曰く、「人脈とは“いざという時に、自分のために働いてくれる人”である」
知り合いが多いこと、顔が広いことは「人脈」でなく、自分の為にひと肌脱いでくれる人が多いことを「人脈がある」というそうです。
納得感の高い定義ですが、藤巻幸夫さんは、その最も分かりやすい成功モデルと言えると思います。
控室でお聞きしたところでは、藤巻さんの携帯電話には、常時1000人程のアドレスが登録されており、頻繁にコミュニケーションを取っているとのこと。
しかもその1000人の多くが、“いざという時に、自分のために働いてくれる人”である点が、藤巻さんの特徴です。


イトーヨーカ堂の役員を退任された藤巻さんの、最初の仕事は、旧知の中で、ドリカムの衣装デザイナーとしても活躍している丸山敬太氏の会社を子会社にするための投資だったそうです。
テトラスター社というその会社への投資を、藤巻兄弟と共に承諾してくれた二人の人物は、1000人の中に入っている方で、いずれも、数千万円の投資を電話一本で承諾してくれたとのこと。
「フジマキちゃんのためなら、ひと肌脱ぐよ」と快諾されたそうです。
この「人脈」は、彼が、キタムラ、福助、ヨーカドー等々、さまざまな会社から声を掛けられてきた理由となる、大きな武器のひとつに他なりません。
そして、その武器を、他ならぬ藤巻さん自身が、よく認識しており、手入れと機能向上を怠らないところに、きょうの講演の本題「自分ブランド」を磨くことの実践でもあるようです。
藤巻さんは、「自分ブランド」を、自分自身の武器であり、魅力であり、競争力の源泉になるものと定義しています。
更には、「自分ブランド」の磨き方をファッションバイヤーらしく、ファッションブランドの作り方のメタファーで説明してくれました。
・MD(マーチャンダイジング):自分とは何かを明確にすること
・VMD(ビジュアルマーチャンダイジング):どのように自分を見せるか(伝えるか)
・宣伝:どうやって自分を売り込むか
・人:他者との協働により自分を進化させること
「自分ブランド」は、この4つの要素のかけ算で構成されると藤巻さんは考えています。
さて、冒頭の人脈論の続きに戻ります。
高田先生は、人脈形成に必要な要素に、「一緒に修羅場をくぐること」をあげています。
共に苦労をした経験が、相手の人となりを理解し、自分のそれを相手に理解してもらうこと、つまり「見極めること」に必要だと考えるからです。
つまり「人脈力」とは、内側に「見極め能力」という高度な力を兼ね備えてはじめて成立し得るというわけです。
一月に夕学にご登壇いただいた北海道大学の山岸俊男先生は、「信頼理論」の中で、「社会的知性」という呼び方で、この見極め能力について触れていることは、以前このブログでもご紹介しました。

「社会的知性」とは、相手の立場に共感することができ、その立場になって考えることができる能力を意味します。相手を理解することが、相手の行動を予測することに繋がり、結果的に「相手が信頼できるか否か」を判断する力に繋がります。

藤巻さんの講演をお聴きになった方は気づかれたと思いますが、藤巻さんが、再三口にされた「現場主義」という言葉には、見極め能力を学ぶ場としての「現場」の意義が含まれていたと思います。
伊勢丹入社間もない頃、藤巻さんの仕事は、三坪のバーゲンセールコーナーの呼び込みだったとのこと。
先輩バイヤーが仕入れた「どうみても売れない商品」を、如何にして売るかを考え続けた経験が、フジマキ流「現場主義」の原点です。
バーゲン品に目を留めてくれる、手に取ってくれる数少ないお客様の立場になって考え、お客様の思いに共感し、何を望んでいるかを感じ取る力を養う教室が、三坪のバーゲンコーナーでした。
およそ全ての新入社員が体験するであろう「顧客に触れる原点」から、本質を学び取り、数千万円の投資を電話一本で快諾してもらえるほどの「人脈」にまで育てあげること。
藤巻幸夫さんの凄さは、そこにあるのではないでしょうか。

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