夕学レポート
2008年10月17日
「官僚の思考特性」 高橋洋一さん
「起きて困ることは起きないことにする」
「あって困ることはないことにする」
歴史作家の半藤一利さんは、この思考特性こそが「近代以降の歴史から垣間見える日本の支配者層の通癖である」と言います。
西洋列強が力づくで開国を迫ってくることを予期しながら、何の対策もとっていなかった幕末の幕府官僚。
米英と戦えば間違いなく負けると分かっていながら、戦争への道を突き進んだ昭和の陸軍官僚。
年金問題や汚染米問題での隠蔽体質に象徴される中央省庁のキャリア官僚。
自分達のやり方、決めた方針に固執し、都合の悪いこと、起きて困ることには目をそらして、いたずらに時間を消費し、誰もが気づいた時には手遅れになってしまう。
わが国の支配者層に染み付いた、そんな思考特性を改めて認識させてくれた高橋先生の講演でした。
評価の是非は別として、小泉構造改革を理論と実行の両面で支えたのが竹中平蔵氏であったことは周知の事実です。
東京大学理学部数学科卒で、大蔵省の「変人枠(自称)採用」で、ペシャリストとして官僚人生を歩んでいた高橋先生は、旧知の竹中さんに請われ、官僚組織の竹中包囲網に対抗する特別チームに加わることになりました。身内を敵に回したわけです。
冒頭の思考特性に照らして言えば、官僚組織にとって、「起きては困ること」は、100年以上続いてきた官僚支配システムを変えることです。
小泉構造改革が目指したいくつかの改革は、官僚支配システムを破壊することに他なりませんでした。
高橋先生は、講演の中で、「起きては困ること」の代表例として、「埋蔵金」と「公務員制度改革」の二つを説明されました。
「埋蔵金」とは、主に特別会計に積まれた剰余金のことで、企業会計のBS(貸借対照表)でいえば、資産から負債を差し引いたものにあたります。繰越利益や内部留保と考えると分かりやすいそうです。
国会の厳しい審議をうける一般会計と違い、特別会計は公開の義務がないベールに包まれた運用がなされてきました。その結果、当初はリスク対応として意味のあった準備金が実態としては剰余金として積みあがっていったわけです。しかも財務官僚も含めて、その全体額がどの程度になっているのか、誰も把握していなかったと言います。高橋先生の計算では50兆円を越える規模になるとのこと。
特別会計は、財務官僚にとって力の源泉とも言えるものだそうです。
財政投融資を通じて数百を越える独行・特殊法人に補助金として注ぎこまれるからです。「埋蔵金」への着目は、特別会計に対する監視強化とイコールになります。そこに余裕があったとなれば、規定路線である増税構想に支障が生じます。
そして何より、巨大な官僚組織を支える相互扶助システムの血流が細ることを意味します。
「公務員制度改革」は、端的に言えば、キャリア官僚の天下りを禁止することにあります。
官僚組織にとっては、「埋蔵金」発掘以上に「起きては困ること」であることは説明の必要もないでしょう。
高橋先生が、小泉政権、安倍政権を通じて約6年間を過ごした内閣府での仕事は、この二つに代表される、官僚にとって「起きては困ること」を「起こす」ための日々でした。その壮絶な戦いの様子も、高橋先生が飄々と語ると何かユーモラスに聞こえてくるのは不思議なことでした。
総指揮官である小泉さんの強いリーダーシップ、実行司令官である竹中さんの知略と行動力、高橋先生をはじめ、「ルビコン川を渡った」官僚の志、そして国民の支持が改革を推進しました。
「埋蔵金」については、当初財務省は、その存在すら言下に否定していましたが、昨今の議論をみると、いつのまにか存在することを前提にして、どのように使うかに論点が移っている感があります。
「公務員制度改革」も法改正だけをみれば7合目までの改革が進んだそうです。
ただ、小泉さん以降で、最も官僚寄りと言われる麻生政権のもと、その骨抜き作業も着々と進んでいるようで、これからの展望はけっして明るくないようです。
官僚組織の強さは、高度に複雑化した現在の行政システムを隅々まで理解し、運用できるのは彼らしかいないという希少性にもあるようです。
官僚の力を借りなければ事が運ばないことを政治家も、財界も、マスコミでさえも知っていると言います。
とはいえ、その強さを支えるのは組織でもシステムでもなく、個々人の能力です。
明治の維新政府の現場をささえたのが、幕府に使えていた中下級武士の専門家集団だったように、志ある官僚が、組織のくびきを離れて新しい時代を作ることもできるはずです。
高橋先生は、「脱藩官僚の会」なるインフォーマル組織を作っているとのこと。
条件はただひとつ、官庁の支援を受けずに民間に下ったキャリア官僚であることだそうです。国を良くすることに繋がるのであれば、たとえ民主党であろうと協力し、情報分析や法案立案など、官僚出身者でなければ担えない専門技能を提供する用意があると宣言しているそうです。
いまは20人数名の「変わり者集団」(高橋先生自称)でしかない「脱藩官僚の会」が、ある規模を越えた時、日本も大きく変われるのかもしれません。
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