KEIO MCC

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夕学レポート

2008年10月27日

「中国はひとつではない」 国分良成さん

メタミドホスではじまり、メラミンで暮れようとする今年の日中関係。
両国関係を象徴するニュースは、餃子・インゲンに代表される食品汚染問題になることは間違いありません。消費者もスーパーも、「いったい次は何か」と戦々恐々の状態です。
国分先生は、この報道を冷静に観察しています。
曰く「日中関係はようやく“本来の関係”になった」とのこと。
「近くて遠い国」の代表であった中国は、いまや文字通り「近くて近い国」になりました。皮肉なことに、30年前、日中間の交流がほとんどなかった頃は、日本の対中イメージが良かったそうです。それに対して、この数年の対中国の印象は芳しくありません。
かつての好印象は、パンダとNHKのシルクロード特集が作り出した虚構のイメージ、それに対して、現在の悪印象は、日常的関係に根ざした実像です。
接触が増えれば摩擦も増えるのが国際政治の常識。その意味で “本来の関係”になったということでしょうか。


さて、国分先生は、経済、政治、日中関係の3つのテーマでお話を展開されました。行きつ戻りつしながら進んだお話は、3つのテーマが重層的に絡み合っていることをあらわしていたのかもしれません。
まずは中国の経済から。
1978年「改革・開放」路線の開始から30年。1992年「社会主義市場経済」宣言から16年を経て、「中国は原始資本主義の状態にある」と国分先生は言います。
マルクス的社会主義の二大特徴である ①公有制(私有財産の否定)と②共産党指導のうち、公有制が徐々に崩れつつあることを根拠にした見解です。中国は4年前に憲法を改正して一部で私有財産を認めているそうです。
ただし、共産党指導は依然強固で、公有制も、土地に関しては国家所有が守られています。
言うならば、独裁的な権力機関による国家統治は行き渡ってはいるが、経済的には資本主義が進んでいる状態ということになります。
王政が続く帝国主義前夜の欧州、軍部独裁下の戦前の日本、いまならプーチン政権下のロシアといった感じでしょうか。
「所得の再分配」も機能しない状態だそうです。
所得税の補足も不十分なうえに、税制そのものが未整備で、相続税も累進課税もなく、富を持つものに富が集中する仕組みになっています。
外資を使った産業振興や輸出産業によって、高い経済成長を成し遂げているものの、ひと握りの富裕層が独占的に富を握り、その富を投資ファンド等を通じて海外の金融市場に投資する。
格差は益々拡大する傾向にあるのが中国経済の実態だそうです。
政治は更に身分制が強固になっていると言います。
今年行われた17回中国共産党大会で見えてきたことは、大子党(党幹部二世)の台頭でした。この数年続いてきた江沢民と胡錦涛による権力闘争の隙間を縫うように勢力を伸ばした彼らの存在は、政治権力の固定化が一層強くなることを予見させるとのこと。
中国は、前任者が後継者を指名するという風習が強いので、権力層の世襲体制はより強固になることが予想されそうです。
しかも、経済的な富裕層と政治的な権力層は限りなく重なると言いますから、「金」も「力」も一極集中が加速されることになります。
政治的な変化は、日中関係にも影響を与えるだろうと国分先生は言います。
この数年、権力闘争の争具に使われたことで混乱してきた日中関係ですが、強調融和への舵が取られたことがはっきりしてきたそうです。
日中間に横たわっていた台湾問題と歴史問題という二つの障害に対して、いずれもフタをして、前向きな関係を築こうというメッセージが繰り返し発信されているといいます。
対日だけでなく、対米、対世界における戦略的な互恵関係構築に向けた取り組みは大きな流れとして見えているので、中国が国際的に孤立することはないだろう国分先生は見ています。
ただし、それは国際社会の一員としての自覚が芽生えたというよりは、経済のグローバル化に両足まで浸かった以上、米国と対決することは得策ではないという打算的な政治判断が働いている結果だと理解することも出来るとのこと。
資本主義と社会主義という 相反する道を同時に歩もうとすることで噴出する多くの矛盾・問題(格差、不正、腐敗)は益々ひどくなるだろう。
権力側は、強固な政治体制のもとで、矛盾・問題を強権的に押さえつける状況が続くだろう。
対外的には強調関係が促進されていくだろう。

中国のこれからを予見すると、そんな感じになるでしょうか。
「中国四千年」というが、中国の歴史はわずか100年に過ぎない。
清、明、元...いずれも国の範囲が違うし、民族も異なる。歴史的にみても、けっして中国はひとつではない。巨大な領土にひしめく多様性を、権力で押さえ付けているだけだ。アメリカが多様性を民主主義で束ねようとしているのと同じように...
国分先生は、中国とアメリカの相似性をそう解説してくれます。
国分先生は、中国と日本の相似性にも言及されました。
中国が歩んだこの30年は、日本が歩んだ60年とよく似ている。
東京オリンピックで先進国の仲間入りを果たし、石油危機やドルショックを乗り越えて経済大国となり、必然として遭遇したバブルと、その崩壊による後遺症が癒えぬ間に、金融危機の到来に騒然としている。
日本が直面してきたそれらの問題に、ほぼ同時に直面しようとしているのが中国とも言えます。
「近くて近い国」同士ゆえに摩擦が避けられない日中関係。けっして感情的にならずに、彼らの本音を掴むことが必要なようです。

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