夕学レポート
2008年11月19日
「古典の楽しみ方」 加賀美幸子さん
今年は、「源氏物語千年紀」。京都をはじめとして、各地で「源氏物語」にちなんだイベント・催事が開催されています。
「源氏物語」は三部五十四帖に及ぶ大作で、登場人部は500人、主要人物だけでも50人に及ぶという大長編です。
物語の嚆矢とも言われるシェイクスピアよりも600年以上も前に、恋愛・出世・愛惜といった人間臭いテーマを扱いつつ、これほど豊潤で奥深い文学作品が存在したことは、世界に誇るべき日本文化のひとつといって過言はないと思います。
「古典を愛したアナウンサー」を自称する加賀美幸子さんにとって「源氏物語」の魅力は、
やさしく読んでも楽しい、深く読み込めば味わい深い、その奥深さにあるそうです。
「好きで、好きで仕方ない」
加賀美さんのお話を伺うと、「源氏物語」に対するそんな思いが伝わってきます。
私のような古典ビギナーが抱く、「源氏物語」に対するステレオタイプの印象は、次のようなものでしょう。
・稀代のプレイボーイ光源氏の奔放な恋愛遍歴を描いた色恋い物語。
・高貴な貴族社会を舞台に、不義や不倫、嫉妬や憎悪も遠慮なく描きだす人間的な世界。
・彰子と定子というライバル同士の中宮に仕える、紫式部と清少納言というこれまたライバル同士の高級女官の対立構造を背景に持つ。
等々でしょうか。
きょうの講演で加賀美流「源氏物語」観を伺うと「なるほど、そういう見方で捉えることもできるのか」と得心をいたしました。
源氏は、その名の通り“ヒカリ”の源である。
全てを遍く照らし、隔てなく愛情を注ぐ恒星のような存在。
女性達は、恒星を中心に円軌道を描きながら回っている惑星のようなもの。
恒星との距離、大きさ、生まれた経緯などの違いを抱えながら、それぞれの位置で、源氏という光り輝く光源に向かい合い、自分なりの愛や生き方を貫こうとする。
そんな多様な女性像を、紫式部は描こうとしたのではないか。
清少納言のような、勝ち気で激情型の人間ではなく、懐の深い人間観察力をもった紫式部だからこそ、書くことができた物語である。
加賀美流「源氏物語」観を、私なりの要約してみるとこんな感じでしょうか。
加賀美さんは、「源氏物語」に描かれた多様な女性像の中から、読み手が、感性の趣くままに、自分に一番ピッタリとくる「理想的女性像」を見つけ出すことができるのではないかと言います。
ちなみに、加賀美さんが惹かれるのは「花散里」なる女御だそうです。
数多い源氏の妻のひとりですが、容貌はそれほど美しくなく、どちらかと言えば地味な部類に入る女性だそうです。
温厚な性格で、表だった自己主張はなく、自らの境遇を諾として受け入れ、結果的には、源氏が他の女性との間に作った子供の養育を担います。
加賀美さんは、ともすれば受け身的な女性と受け取られがちな「花散里」の姿と生き方に、揺るぎない自信と芯の強さをもった理想的な女性像を見いだすといいます。
声に出さない主張、態度で表さない思いに、心を打たれるのかもしれません。
加賀美さんは、現在NHKラジオ『古典講読』で源氏物語の朗読を続けています。
毎回一帖、全54回。加賀美さんが朗読し、伊井 春樹氏(国文学研究資料館館長)が解説をするシリーズだそうです。
「源氏物語」を原文で読み込み、言葉の響きや息づかいにまで思いを巡らすという加賀美さん。これまで古典には縁がなかった方も、これを機会に、週末の夕方or早朝のひと時、加賀美さんの素敵な声に導かれて、「源氏物語」の世界に浸ってみるのもよいのではないでしょうか。
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