KEIO MCC

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夕学レポート

2008年12月19日

「あえて二兎を追う」 島田亨さん

「金融危機」は世界をどう変えるかという論説のひとつに、「多極化時代」への変化が加速度を増すであろうという見解があります。
冷戦終結以降、20年近く続いてきた、米国の単独行動主義が限界に達し、米国一極集中時代から多極化へと政治経済の力学構造が変化するだろうというものです。
どうやら、それとよく似た現象が、プロ野球にも起きているようです。
「巨人戦の視聴率低迷をもって、野球人気の崩壊と言う人がいるが、それは誤りである。 野球人気が衰退したのではなく、巨人人気が衰退したに過ぎない」
「メジャー、高校野球、地方TVの野球中継等々、全てを合わせれば、視聴率はむしろ伸びている」
二宮清純さんはそう言います。
福岡に浸透したソフトバンク、札幌に根付こうとしている日本ハム、地道なファン獲得を続ける千葉ロッテ。 巨人、阪神の全国区球団だけでなく、地域密着型の球団経営、チームづくりを行う球団が力をつけてきました。
不思議なもので、次代を担う若手有望選手は、そういう球団から育っています。
本日の講師、島田亨さんが、球団社長兼オーナーとして率いる楽天野球団も、そんな多極のひとつになった球団です。


リクルート出身で、ベンチャー起業家、投資家として活躍していた島田さんが、旧知の三木谷さんの誘いで楽天野球団の経営を担うことになったのは、2004年の終わり頃のことでした。
結成当時の楽天は、近鉄とオリックスが合併した新生オリックスの構想からこぼれ落ちた選手を中心に構成されました。戦力的には、誰が見ても劣勢は否めませんでした。フランチャイズとして選んだのは、野球不毛の地と言われた仙台。
話題性は高かったものの、前途多難のスタートではありました。
島田さんが、やったことは、あえて「二兎を追う作戦」でした。
地域密着のファン作りと全国的知名度の向上の両方を狙おうというものです。
アンチテーゼとしては、イチローブームに翻弄されたオリックスがあったとのこと。
「優勝するまでに10年かけてもいい。一歩一歩着実に強くなり、観客動員数を増やしたい」
島田さんは、社長就任時から、そう言い続けたそうです。
低迷する組織を立て直す際には、まず自分たちのビジネス・事業の意味づけの再構築が必要になるのは、企業再建とまったく同じです。
島田さんは、まずそこに着手しました。
「野球を観にいくこと、観にいくところ(球場)の意味づけを変える」ことです。
単に野球を観るのではなく、「球場に足を運んでもらうこと、球場で時を過ごしてもらうことそのものをエンタテイメントとする」ことがそれです。
球場全体をエンタテイメント空間とし、球場で過ごすことをエンタテイメント経験の場と考えることで、地域密着のファン作りのためにやるべき具体的な施策が見えてきます。
改装の方向性、シートの設計、イベントやキャラクターのあり方、選手のプライド維持の重要性、選手と地域の距離感etc、地道な取り組みがひとつずつ加わっていきました。
今期の楽天野球団の観客動員数は初めて110万人を突破(前年比104%)。宮城地区のTV中継の視聴率は平均13.5%。努力に結果が追いついてきました。
楽天が追いかけた、もう一匹の兎「全国的知名度の向上」は、思わぬ副次効果から火がつきました。チーム作りのために招いた野村監督の存在です。
終了後の監督談話だけでスポーツニュースのコーナーを占められるのは野村監督だけです。
負け続けるチーム、信じられないプレーの連続。野村監督のボヤキの種は尽きることはありませんでした。
「どうせなら、ボヤキ専用のスペースを作ろう」
 監督の背面にスポンサーのロゴが見え隠れする、おなじみのインタビュースペースも出来ました。
野村監督の強運は、ドラフトで田中マー君を引きあて、山崎や岩隈の復活も話題になり、今シーズンの楽天球団がらみのニュースの広告露出換算は350億円にもなるそうです。
アンケートを取ると、楽天は巨人・阪神といった全国区チームに続き、僅差で中日の後ろについて4位。ビジター平均入場者数でみても、パリーグで最も観客が呼べるチームは、いまや楽天になっているそうです。
Jリーグ100年構想に携わり、地域密着型のチーム経営こそがプロスポーツのあるべき姿であると信じる二宮清純さんは言います。
「球団個々の経営努力は不可欠だが、それには限界もある。」
「これからは、リーグ全体、野球界全体で野球振興に向けた取り組みが必要になる」
島田さんも、まったく同じ問題意識を持っているようです。
すでに、パリーグではリーグ共同でプロモーションを行うための事業会社設立の準備会合もはじまったそうです。
WBC選手派遣への中日ボイコット問題が象徴するように、親会社の思惑が前面に出すぎている日本のプロ野球界。楽天に代表される新興勢力が、ゾンビ球団を駆逐できる日が来るかどうか。WBCで活躍を期待される選手の顔ぶれを見ると、すでに現場の力関係は逆転しているのではないでしょうか。

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