KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2009年08月28日

仏像と対話する

今春開催された国立博物館の「阿修羅展」は、95万人の入場者を記録しました。
興福寺の参加者が年間100万人程度だといいますから、たった2ヶ月で本家本元の一年分に匹敵する人が、阿修羅像を見たということになります。
空前の「仏像ブーム」と言われる所以ですね。
モデルのはなさんや、イラストレーターのみうらじゅん氏など、仏像ファンを自認する芸能人も多く、仏像の魅力は多くの人に広まっているようです。
その「阿修羅展」を手がけたのが、金子啓明さん(現興福寺国宝館館長)です。
金子さんは、慶應大学院で美学を修め、長らく国立博物館で仏像彫刻の研究や企画展示に携わってこられました。
昨年は「薬師寺展」も企画され、こちらも大きな反響を呼びました。
慶應アート・センターとの共催講座として、金子さんに仏像をテーマにした講座をお願いします。
「慶應義塾大学アート・センター【アート深耕! 仏像―祈りの造形―】」
私は、「阿修羅展」は残念ながら見逃してしまいましたが、昨年の「薬師寺展」は1時間半の行列待ちに耐えて、観てまいりました。
お寺に置かれた仏像は、堂内の光量や拝観者との距離もあって、お姿をじっくりと拝見することは出来ません。阿修羅像のように、宝物館に収められているものも、ケースに隔てられていたり、他の所蔵品と肩を寄せ合うように置かれていることもあって、見物するのに限界があります。
「薬師寺展」の時は日光・月光菩薩の展示が目玉企画でしたが、仏像に触れることができるような間近な距離で、しかも三百六十度ぐるりと廻りながら見ることができました。
少し離れた場所には、普段見上げるばかりの仏像を、少し上から見下ろすように鑑賞できる通路も用意をされていて、こころゆくまで堪能することが出来る仕掛けになっていました。
「薬師寺展」「阿修羅展」に見られるような、仏像とのインタラクティブな鑑賞法は、金子さんが提唱しているものだそうです。
「仏像と対話する」
金子さんは、そう呼んでいます。
例えば、興福寺の阿修羅像の場合は、3面の顔は、闘争の神である阿修羅の成長を表現していると言います。少年-青年-壮年へと変化する様子を、目鼻の位置や顔の大きさを微妙に変えることで表しているそうです。
こういう繊細な部分は、間近でじっくりと鑑賞することでしか確かめることができないでしょう。
今回の講座で取り上げるのは、白鳳時代から天平時代前期、大陸や朝鮮半島からの影響を受けつつも、日本独自の造形表現が刻まれるようになった時代の仏像を取り上げるそうです。
阿修羅像はもちろんのこと、中宮寺の弥勒菩薩や、法隆寺の阿弥陀三尊、薬師寺の薬師如来像etcなどをじっくりと勉強&鑑賞します。
仏教伝来から2世紀近くが経ち、松岡正剛氏が「日本という方法」と呼んだ、日本ならではの外来文化咀嚼法が、仏像造りの世界でも花開き始めていたのかもしれません。
古代にあって、上記のような仏像芸術を作ることは、莫大な金銀と最新の技術を必要とする一大事業でありました。時の権力者が、権勢の象徴として造作を命じたに違いありません。
しかし、若き仏師達は、もっとしたたかに、自分の仕事に打ち込んだのではないでしょうか。
ひょっとしたら、発注者である当時の権力者には見えないように、何百年後の未来のオーディエンスに向けて、何かのメッセージを埋め込んでいるのかもしれません。
彼らが、仏像に込めた祈りの造形とは何なのか。
まさに仏像と対話するようにして、数百年前に仏師達が、蝋燭の炎だけを頼りに作りだし、仏像に込めた造形表現の意味を問い掛けていくのが、新しい鑑賞法なのかもしれません。
実際に国立博物館を訪れ、文化財の新しい鑑賞法であるミュージアムシアターを体験するフィールドワークも組み込まれています。
秋の夜長を、仏像を拝みながら過ごすのも一興かと思います。

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