夕学レポート
2005年07月19日
使命を持って生きること 大谷由里子 元気をつくる「大谷流」コーチング
大谷由里子さんの仕事人生は、吉本興業で横山やすしのマネージャーからはじまったそうです。「世の中に、彼ほど“自分に甘く、他人に厳しい”人はいません。横山やすしのお陰で、私の人間許容のキャパシティは目一杯広がりました」大谷さんが、良く通る元気な声と底抜けの笑顔でそう話すと会場にはどっと笑いが広がりました。実は控室で、「丸の内の方は最初は裃をきていらっしゃるのでほぐれるのに時間がかかります」などど、笑いのプロを相手に余計な事を言ってしまいましたが、まったくの杞憂でした。つかみはOKというところでしょうか。
大谷さんの講演の特徴は、目的としての「大きな志」と手段としての「分かりやすいテクニック」を絶妙のバランスで組み合わせ、抜群に面白い事例に載せて話を展開することです。起承転結もしっかりと構成されていて、心地よい時間を提供してくれました。
年間280日を研修講師として過ごされるとのこと。もはや身体知のレベルに達した技(わざ)を見せていただいたような気がしました。
大谷さんの上記の特徴に関連して印象に残った点は二つあります。
ひとつは「実践と理論の橋渡しが上手い」という点です。これは夕学第一回目の高橋俊介さんの回のブログにも書いたことですが、理論を「実感の貼り付いた知識」として語ることに所以すると思います。社会人教育では、聴衆である実務家は「それが正しいか否か」ではなく「自分にとって有用か否か」を判断基準にします。従って、それが学術的にどれほど価値のある研究成果であったとしても、理論を理論として理解している人が教えると、実務家は、あてはまらない事実を見つけては反論をします。一方で、理論を実践的な経験と結びつけて理解した人が教えると、あてはまる事実を自ら探し出して納得してくれるものです。「実践と理論の橋渡し」は、社会人教育に携わる人にとってコアコンピタンスとも言える能力ですが、その最高の見本をみた思いがしました。
二つ目は、仕事における「使命」の重みです。大谷さんがイベント企画プロデューサーから人材育成のプロフェッショナルに自らのキャリアドメインをチェンジしたのは、阪神大震災がきっかけだったそうです。27才で起業し、浪速の女社長として順風満帆の毎日を送っていた大谷さんも、地震の影響でイベント企画の仕事が急減し、資金繰りにも苦労する日々を送りました。そんな日々の中で、自分が本当に夢中になれることはいったい何なのかを深く考えたそうです。その結果辿りついたのが「本気で仕事をすることの素晴らしさをより多くの人々に伝えること」という「使命」だったとのこと。その思いのたけを著した『吉本興業女マネージャー奮戦記』という本が話題となり、それをきっかけに人材育成の世界に入り今日の活躍に繋がりました。エネルギッシュで愛嬌もあり、頭の回転も早い大谷さんのことですから、イベント企画プロデューサーとしても大活躍し続けたことでしょう。しかし、彼女がここまで全国区で名前が売れたのは、人材育成の世界に入ったからこそではないでしょうか。逆に人材育成の世界が大谷由里子という人を求めていたのかもしれません。いま大谷さんは人材育成を通じた地域開発や街おこしにも積極的に関わっていらっしゃいます。全国の地域や学校で、茶髪にニッカボッカの若者達を巧みに動機づけ、街づくりの実績をあげているそうです。講演では、京都 旧京北町で大谷さんのコーチングに支えられて町おこしに夢中になった元ヤンキーの青年の言葉が紹介されました。「中途半端に生きてきた自分達でも、誰かが信じて応援してくれれば、大きなことができる」 大谷さんの「使命」が結実した素晴らしい言葉だと思いました。
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