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夕学レポート

2010年06月29日

失敗しても納得できるのは、自分のやりたいこと  遠山正道さん

およそ社長らしくない雰囲気を漂わせる人である。
いでたちはオシャレというより奇抜に近い。企業経営者の装いではなく、クリエイターや芸術家のそれである。
それもそのはず、コンランショップのパッケージデザインやイデーの家具デザインなどを手がけ、ニューヨークや青山などで個展を開いている芸術家肌の人である。
「三菱商事初の社内ベンチャー」で、日本の社内ベンチャーでも希有な成功例、Soup Stock Tokyoの創業社長ということで、立て板に水のように美しく戦略論を語る人かと思ったら、まったく違うタイプの人である。
この数年、経営学(戦略論、組織論)の世界で注目されている概念に「ストーリーテリング」という考え方がある。
経営戦略や理念・ビジョンを社内外に浸透させる際に、ありありとした魅力的な物語を語るという手法である。
一橋大の楠木健先生によれば、

「イケてるストーリー」「その線でやってみようじゃないの!」という気にさせる

というものだ。
分析的で客観的であることより、感覚的で主観的であることに特徴がある。
「自分はこれがやりたい!」
そういう熱い意志がたっぷりと詰まったストーリーが、他者をその気にさせる。


13年前、自分の感性と商社マンというステイタスを活かして、何か事を成し遂げたいと「うずうずしていた」遠山さんは、出向先のケンタッキーフライドチキン社に、新規事業案を提案した。
「スープのある一日」と題されたその企画案は、まさに、「ストーリーテリング」の典型例といえそうだ。
遠山さんの頭に浮かんだ、スープを飲んでいる女性の姿をインスピレーションにして、物語形式で書き上げたものだという。
もっともらしい戦略のフレームワークやテンプレートを駆使して、ワンキャッチコピーで美しく表現する戦略論ではなかったが、「イケてるストーリー」「その線でやってみようじゃないの!」という気にさせる効果は抜群であった。
・10年経てばスタンダード
・40億円、50店舗で打ち止め
・JALの機内食にも採用される
裏付けや根拠に基づいた訳ではない、思いの丈をぶつけただけのストーリーのほとんどが、10年後の今日現実のものになったことに、遠山さん自身も驚いているという。
「マーケティングのセオリーから言えば、プロダクトアウト発想はよくないとされているけれど、失敗しても納得できるのは、自分のやりたいことだけでしょ(笑)」
ほんわかとした表情で語る遠山さんの言葉には、明確な経営観・仕事観が見えてくる。
大きくなること、No1になることを目指すのではない。
・低投資で高感度
・誠実な姿勢で、作品を創るような気持ちで商品や事業を捉える
・社員の主体性を重んじ、互いの仕事を賞賛し合う
「スマイルズの五感」と名付ける経営理念を実践する場が、経営であり、仕事である。
当然ながら、遠山さんの思いを強烈に反映した事業展開は、大企業である三菱事業の子会社投資戦略とは相容れない部分もある。
遠山さんも「すごろく」のように動かされている違和感があったという。
親戚の温かい支援もあって、自らも出資してMBOを実施し、名実ともにスマイルズの経営権を掌握し、自分のやりたいことを出来る環境を整えてきた。
ネクタイ専門店「giraffe」
コンセプト型のリサイクルショップ「PASS THE BATTON」
「こんなことやりたいんだよなぁ~」
きっとそんな風に、嬉しそうにストーリーを語ってきたであろう新規事業も育ってきたという。
スープ、ネクタイ、リサイクル
一見まったくシナジー効果がないようにみえる業態ではあるが、低投資・高感度・誠実・作品性・主体性・賞賛という「スマイルズの五感」を実現するフィールドとしては、しっかりとリンクがはられている。
「スープのある一日」という物語を、現実の事業として実現した遠山さんが、次の語るストーリーは、10年後にどういう形で実現するのだろうか。
楽しみに見ていきたい会社である。

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