夕学レポート
2010年10月15日
「見守りましょう」 中村安希さん
多くの知識人が推奨する名著に『逝きし世の面影』という本がある。
幕末から明治にかけて日本を訪れた欧米文化人が書き残した日本の見聞録を読み解いたものである。
著者の渡辺京二氏は、150年前に、先進国からやってきた人々が、極東の未開地と思われていた日本を見た印象には、共通点があるという。
「どこに行っても子供が愛情一杯に育てられ、笑顔に満ちているということ」
「庶民は、男女ともに好奇心が旺盛で明るいこと」
彼らは、貧しいながらも健全な日本の暮らしぶりを見て、日本人・日本文化の水準の高さと将来性を評価した。これらの印象評価は、アジアの同胞に対して強圧的かつ狡猾な態度で侵食を進めた欧米列強が、日本に対しては、ある程度の節度を持って接したことの一因でもあるとされている。
150年の時を経て、先進国のひとつに数えられるようになった日本から、ユーラアシア・アフリカ大陸を訪れた26歳の若き表現者 中村安希さんが訪れた国と人々に抱いた印象は、欧米人がかつての日本に抱いたそれと、似ているようでもある。
最貧国とされる国々の子供達も、明るい笑顔に満ちている。
日がな一日道端にたむろしながら、ただただ楽しそうで、人なつっこい人々の姿。
いずれもかつて欧米人が日本に見た姿とよく似ているようだ。
人間に幸せをもたらす条件は世界で異なる。けっして物質的な豊かさだけではない。
しかしながら、人間の幸せをはかるバロメーターには世界標準がある。それは子供の笑顔である。
中村さんは、2年間で47ヶ国をめぐったという。旅を続けるためには、時に偽装結婚も厭わない、抜群の行動力であった。
好奇心の趣くままに訪れた国は、新興国、貧困国、紛争国、宗教国とさまざまである。
辿り着いた結論は、「世界はいろいろ」だということだ。
「危険」とされている紛争国が、旅人にとっては安全であった。
貧しいとされている国の人々が、必ずしも不幸には見えなかった。
世界を一言で言い表すことはできない。
一方で、共通する問題も見えてきたという。
大量消費文化と環境汚染、それに加えて、先進国の「安易な善意」が引き起こす対立である。
アジア・アフリカの人々の生活衛生に関する感覚は、想像を絶するほど逞しい。汚物・排泄物にまみれて暮らすことをまったく苦にしない。
自然と一体化し、動物のように暮らすことで何千年も生きてきた民族に、プラスチック製品が大量に持ち込まれたらどうなるか。
彼らは、土器や木器と同じ感覚で、プラスチック製品を屈託なく捨てている。
貧しい地域に、善意で学校を建てれば、たちどころに隣村との軋轢が生まれる。
援助を続ければ、感謝の気持ちは、いつしか傲慢な権利意識に変わっていく。
井戸を掘ろう、道を造ろうという行為が、共同体の秩序を壊すこともある。
「人間には、欲とプライドと嫉妬心があることを忘れてはいけない」
中村さんは、そう言う。
先進国が行う、安直な善意が、欲を刺激し、プライドを傷つけ、嫉妬心をあおる様子を数多く見てきたという。
「見守りましょう」
それが、中村さんのメッセージである。
環境を破壊しない。紛争を起こさない。武器を渡さない。資源を搾取しない。安易に金や物をばらまかない。そういうことだ。
中国古典のひとつ「老子」の中には、「不為」という言葉が繰り返し出てくる。
「為さずに、為す」という概念である。
田口佳史さんは、「緊張感を持って見守ることだ」と説明してくれる。
アジア・アフリアの貧困や紛争に関心を持たねばならない。自分の問題として考える必要がある。でもただ行動を起こせばよいというものでもない。
自分の足で立つ人を、ひとりずつでも増やしていくこと。
そのためにわたし達は、何ができるのかを考えねばならない。
追記:
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちら
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/10月14日-中村-安希/
この講演には2名の方に「感想レポート」の応募をいただきました。
・世界から学ぶこと(ステーションマスターさん/会社員/50代/男性)
・凛々しい旅人(鈴木誠さん/会社員/38歳/男)
こちらをごらんください。
2010/10/14 中村 安希氏講演「感想レポート」
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