KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2010年12月10日

ストレスを生きる糧に変える  河合薫さん

よりよいキャリアを切り拓く方法には、大別して二つのアプローチがある。
ひとつは、デザインアプローチ。「本当に自分のやりたいことは何なのか」を吟味し、ゴールに至る道筋をデザインすることを重視する。
もうひとつは、ドリフトアプローチ。自分の関心ある方向に向かって、意志をもって歩き出すことを重視し、歩きながら道を拓いていく。
河合薫さんのキャリアを見ると、典型的な後者の道を歩いている人であろう。
ANAの客室乗務員、テレビの気象予報キャスター、社会人大学院生として博士号の修得と、一見脈略がないようにみえても、彼女の中では、首尾一貫した意味づけがなされたキャリアなのであろう。
さて、不勉強ながら「健康社会学」という学問分野名をはじめて知った。
心理学、医学、社会学のクロスする部分にあり、心身の健康を「自分要因」と「環境要因」の両面から解明しようというものだ。
こころであれ、からだであれ、健康を阻害する原因は、自分だけにあるのではない。環境に起因することも多い。
であるならば、健康になるためには、自分が節制するだけではなく、環境を利用することも重要だと考えることに特徴がある。
「他人の力を使う」
河合さんはたいへん分かり易い言葉を使って健康社会学の勘ドコロを紹介してくれた。


講演のテーマは、「生きる力」であった。
健康社会学的にいえば、「ストレス対処力(Sense of Coherence)」という概念があてはまるという。
「ストレスを生きる糧に変える力」ということになる。
ストレスは「人生にとっての雨のようなもの」だという。
雨が生命を育む源であるように、ストレスは人間の成長に不可欠なものだ。しかし、雨に濡れ過ぎるとカゼをひいてしまう。
人生にも、ストレスという雨をよける「傘」が必要である。
傘は一本よりは、二本、三本とあった方がよい。折れることもあれば、忘れてしまうこともある。しかし、自分が用意できる傘には限りがある。
であるならば、周囲の人々から傘を貸してもらえばよい。
傘の貸し借りができる温かい人間関係。「困った時には、きっと誰かが傘を貸してくれるだろう」という他者への信頼。
それを持てるか(or作れるか)どうかが、ストレス対処力の強弱を決める。
傘の貸し借りが上手な人=ストレス対処力の高い人は、自分で三つの傘を持っている、と河合さんは言う。
1)有意味感
ストレッサーは自分にとって、挑戦でもあり、それに対峙することは人生に必要なことであるという確信。
2)把握可能感
直面した出来事を、自分が説明できる秩序だった明瞭な情報として受け止められる感覚。
3)処理可能感
ストレッサーに対応し、処理するための資源が自分にはあるという確信。
「意味づけ感」「わかる感」「できる感」といった感じだろうか。
どんな困難であっても、それを乗り越える意味・必要性が認識できれば勇気が湧く。
問題の全体像が把握できれば、どこからどう手を付けるべきかがイメージできる。
なんとかなりそうだという感覚が持てれば、がんばりが効く。
実に納得のいく説明であった。
立場を変えて、部下や後輩に傘を貸してあげたいと思っている人は、どうすればよいか。
河合さんは、「ひと声かけることだ」と言う。
有意味感を高めるためには、「がんばっているな」「やっているな」
把握可能感を高めるためには、「俺が責任を取ってやる」処理可能感を高めるためには、「お前なら大丈夫だ!」
そのひと声が、「困った時には、きっと誰かが傘を貸してくれるだろう」という他者への信頼を醸成する。
健康な職場に、小難しい理屈は必要ない。改めてそう思う。
追記:
この講演には74件の「明日への一言」が寄せられました。最高記録です!!
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/12月-9日-河合-薫/
この講演に寄せられた「感想レポート」はこちらです。

・ストレス社会における「生きる力」と学び(WBS生/会社員&学生/40代/男性)

・生きる力を高めるリーダー術(ピカピカリーダー/会社員/40代/男性)


・人も、天気も、メリハリが大事(いちげんトム/大学職員/40代/男性)

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