夕学レポート
2011年01月22日
「女性の気持ちの代弁者」として歴史を書く 田渕久美子さん
1月9日に始まったばかりのNHK大河ドラマ。五十作目を迎えた今年は『江 ~姫たちの戦国~』である。その原作・脚本を書いているのが田渕久美子さん。好評を博した『篤姫』に続く大役である。
「女性の時代という風潮を受けて、大河も女性を主人公にすることが増えた...」という声を聞くことがあるが、実は、大河ドラマには、草創期から女性主人公を扱うことがあった。
調べてみたら、最初は1967年の五作目『三姉妹』までさかのぼることが出来た。
女性が主人公で、しかも女性が原作・脚本を書いたものとなると、80年代に橋田壽賀子さんが三作書いている。(『おんな太閤記』81年、『いのち』86年、『春日局』89年)
私は、歴史好きなので大河ドラマは、小学生の頃から見てきた。72年の『新・平家物語』(主演:仲代達哉)が記憶の最初になる。
ほとんど見なかった年もあるので、完璧な記憶ではないが、女性主人公の年は面白かったという印象が残っている。
橋田作品は、貧しさに耐え、夫を支えて、最後に幸せを掴むという、かつての日本的女性像であった。
田渕作品は、しっかりと主張し、自我を持った女性が描かれているような気がする。『篤姫』の人気は、田渕さんが造作した「凜とした生き方」とそれを見事に演じた宮崎あおいの演技力にあった。
橋田さん、田渕さんの共通点は、女性が描く歴史解釈のユニークさにある。
田渕さんによると、男は歴史解釈の空白や余韻を重視する。「いったいなぜか。それは自分で考えよ」という書き方をする。
女性は違うという。
「ちょっとアンタ、どうしてなのよ!」
と突っ込みたくて、しょうがないのが女性だと田渕さんはいう。
今回の「お江」は、あらゆる場面に顔をだし、突っ込みを入れる役割だという。
女性の気持ちの代弁者。田渕さんが歴史の世界に放った分身のようなものだ。
先週の第二回では、叔父である信長の寝屋に忍び込んで、「なぜ延暦寺を焼き討ちしたのか?」「父の髑髏で祝杯をあげたのは本当か?」と問いただした。
これからも同じように、どこにでもしゃしゃり出て、どんな偉い人間であろうと遠慮なく「なんで?」を繰り出していくらしい。
光秀に対しては、「なぜ、主君である信長に謀反を起こすのか?」
秀吉に対しては、「なぜ、千利休を殺すのか?」
家康に対しては、「なせ、秀頼を討つのか?」
歴史の「WHY」を掲げて相手に迫り、その理由を語らしめてくれる存在になる。
通説での「お江」は、悋気持ちで、夫(二代将軍秀忠)が側室を持つことを許さず、将軍になれない次男に盲目的な愛を注いでしまう単純な女性として描かれることが多かった。
今回は、女性の気持ちの代弁者として、どのような人物像に描き出すのか。田渕さんの腕の見せ所である。
さて、「お江」以外にも、今回の登場人物で、田渕さんが思い入れを込めて作り込んだ人が二人いるという。
ひとりは「信長」。田渕さんは大の信長ファンとのこと。
「大河には出ない」と公言していた豊川悦司を、三顧の礼で口説き落としたというからすごい。
冷徹な革命者で、自分を語らない人物として扱われてきた信長が、今回は、「お江」の問いかけを温かく受け止めて、自分の理想や願いを語るらしい。
あす(30日)放送の第三回は、最高の見所になるそうなのでお見逃しなく。
もうひとりは、「お江」の三人目の夫になる「秀忠」(向井理)だという。
家康という偉大過ぎる父を持った凡人将軍が、コンプレックスに苦しみながらも自分のスタイルを築きあげるプロセスが見ものであろう。
70歳過ぎても、元気に子供を作り続ける父親(家康)に対して、息子はどういう思いを抱くのか。女性ならではの解釈で描かれるという。
実は、田渕さんは、『篤姫』の脚本を執筆し終えた直後にご主人を病気で亡くしたという。
最愛の夫(13代将軍家定)に先立たれた篤姫の人生に重なるものがある。
「大切な人を亡くした時の哀しみを、しっかりと描けただろうか」
偶然の不幸に驚きながらも、そんな思いに駆られたという。
田渕さんにとって、今回の「お江」を書くことは、その思いをぶつけよ、という天命であった。
「お江」も、父(浅井長政)、叔父(信長)、姉(淀君)、息子(忠長)と、愛する肉親次々と亡くすことになる。
その哀しみにどう向き合い、乗り越えていくのか。
それも今年の大河の見所のひとつである。
・この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/1月21日-田渕-久美子/
・この講演に応募いただいた「感想レポート」2件です。
「力強くたおやかに生きる~篤姫とお江~」(Satoshi/会社員/44歳/男性)
力強くたおやかに生きる 初めて夕学五十講を受講して(黒沢/会社員役員/40代/女性)
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劉 慶紅
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
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稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
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