夕学レポート
2011年04月05日
詩集 『絶対空間』
昨年春に開催したagora「覚和歌子さん・谷川俊太郎さん【詩の教室】」の受講者の皆さんが、講座の課題として取り組んだ詩作を、私家版の詩集にまとめました。
本当は、ここまでやる予定はなかったのですが、覚さんが講師の枠を越え、クリエイターとして本気モードで添削・指導していただいたことと、その指導を受けて受講者の皆さんも、これまた本気モードで取り組んでいただいたことで、いずれも劣らぬ力作が揃い、どうせなら形あるものとして残そうということになりました。
タイトル『絶対空間』は、ある受講者の作品名を使わせていただいたと聞いています。
講座の一環として、受講者全員で言葉をつないで作った詩に、作曲家の丸尾めぐみさんが曲を付けてくれた記念歌「東京朝歩」も譜面付きで納められています。
私事ですが、昨年山口の中原中也記念館を訪れました。
中也は30歳で早逝して天才詩人ですが、生前に出版した自作の詩集は、たった一冊『 山羊の歌』しかありません。
記念館で改めて資料を見学すると、『山羊の歌』を出版するために中也がいかに苦労をしたのか、そして思い入れをもっていたのかがよくわかります。
いくつもの出版社に断られ、ようやく決まった小さな出版社でも思うように事が進みません。
中也が、装幀や表紙のデザインに強くこだわり、コストが合わずに話が頓挫しそうになったこともあったようです。
なんとか出版にこぎ着けて初版で刷ったのは、わずか300部。そのうち100部を中也が引き取り、自分で番号を振って、友人・知人に送ったとのこと。
『山羊の歌』出版の翌々年には、子供を亡くしたショックもあって、精神が不安定になり、結核も患って、世に出ぬままに、この世を去りました。
まさに、生命を犠牲にして、渾身を込めて送り出した詩集でありました。
覚さんは、巻末に「あとがきにかえて」と題して次のように書いています。
詩を書くことは自己表現か。
そうありたいと思わないけれど、結果としてそうならざるを得ないのが、表現というものなのでしょう。
詩作品を読むことは、書き手の深層意識に向かい合うことをさけられないという意味で、具体的な出来事を伏せられたままで聞く人生相談に似て、なかなかにエネルギーが必要であると、今回の皆さんを相手にして初めて思い知りました。・・・・
人間が自分と向き合い、こころの深海に沈め置いていた意識を掴み出す作業は、きわめて緊張感を伴う精神作業です。
それを言葉に換え、他者に伝える行為には、それ以上の気力と知力が求められます。
限定25部の、小さな詩集にも、語り尽くせぬ人生が、しっかりと詰まっているのでしょう。
覚さんの「詩の教室」は今年も開講します。
覚 和歌子さん・谷川俊太郎さん【詩の教室】
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