夕学レポート
2011年07月19日
世界の水の問題解決に向けて 沖大幹さん
沖大幹氏の専門は「水文学」である。
専門的に言えば「地球の水循環システムの研究」となる。
平たく言えば「水に関わる森羅万象を研究すること」だという。
地球上の水の多くを占める「海」、雨の恵みの元となる「雲」、天然水資源貯蔵庫ともいえる「雪氷」、水の存在を知らしめてくれる「植物」。
水循環システムを構成するこれらの要素が、気候変動や人間活動によって、地球規模でどのように影響を受けているのかを科学的に解明する。
まずは沖先生が示してくれた水に関わる基礎データを紹介しよう。
・世界の自然災害による死者数のうち洪水によるものが55%、旱魃によるものが31%。
水は人類を生かすこともあれば、殺すこともある。
・1km以内に1日20L/人の水(安全な水へのアクセス基準)を確保できる人は、世界人口の1/7でしかない。
水は人間の命を繋ぐ。
・日本人が1日に使う飲み水は2L~3L/人、洗濯や風呂など健康で文化的な生活を維持するのに必要な水道水は1日に200L~300L/人、必要な食糧生産にしようする雨水・灌漑水は1日あたり2000L~3000L/人に相当。
私たちは、毎日は驚くほど大量の水を使用している。
・上水道の単価は100年/トン程度。(米や肉、生乳などはその1000倍)
水は信じられないほど安価である。だから大量に使うことができる。
水は、地球上の貴重な資源、だから大切にしなければならない...というけれど、そんなに単純なものではないらしい。
水資源はストックではなく、フローである。地球上のどこかで流れたり、降ったり、注がれたりしている。
フローの総量は年間4万キロ立方メートル、そのうち人類が使っているのは4千キロ立方メートル、1/10に過ぎない。量的には充分にある。
ただ、それが地理的にも、時間的にも偏在していることが問題なのだ。
かといって、充足している国(例えば日本、雨期の東南アジア)から不足している国(中央アジア、アフリカ)へ運べば、あるいは貯蔵しておけばいいかというと、それが出来ない。
貧しい人も使える程度に安価でなければ意味がないが、水は重く、かさばるので運搬や貯蔵に莫大なコストがかかってしまうからだ。ぺットボトルの水は貧しい人には買うことは出来ない。
偏在を所与の条件として受け止め、その中で安価で安全な水を行き渡らせるにはどうすればよいのか。複雑な方程式を解かねばならないのが実情のようだ。
ではどうすればよいのか。
ひとつは、先進国の技術とライフスタイルに答えがあるかもしれない。
水洗化率があがり、電気洗濯機が普及すれば水の消費量は増えることが想定できる。一方で世帯平均人員は減っているので水使用の効率は悪くなっていくはずである。
ところが実際は、日本の生活用水の使用量は、この20年間ほど横ばいで推移している。
省水技術や再利用技術の開発により、水の効率使用が可能になってきた。
そのノウハウを開発途上国に移転することが必要になる。
水ビジネスもひとつの答えになる。沖先生は考えている。
単なる支援では続かない、水にかかわる問題解決ビジネスに転換することで持続可能性が高まるかもしれない。
ただし、クリアすべき条件もあるという。
ひとつは、大規模投資・長期回収というビジネスモデルに耐えられるかどうか。ファイナンスが鍵を握る。
もうひとつは、総合的なマネジメント体制が構築できるかどうか。
水ビジネスはハード技術の輸出ではない。井戸掘削や浄水還元技術だけを移転しても、それを回すソフトスキル(課金、集金、盗水対策)を構築しないと絵に描いた餅に終わる。
先進国の常識は通用しないので、それぞれの国の状況に合わせたマネジメントが不可欠になる。
水ビジネスではないが、水にかかわる知恵の伝達という意味では、6月9日に夕学に登壇していただいた中村哲さんの活動がよい例になるのではないか。
高度で先端的な技術は使わない、高価な材料を使う工法も用いない。石と針金と小さなユンボさえあれば、現地の人でもメンテナンスが出来る技術を使って、大規模な灌漑用水路を作っている。
かつての日本が持っていた伝統工法を輸出することが一番適しているのかもしれない。
日本は水に恵まれているとはいうけれど、ミクロでみれば、わずかな沢の水を巧みに活用する棚田や、毎年のように襲う洪水と付き合ってきた堤防技術など、生活に根付いた「水の治め方」があるはずだ。
この講演に寄せられた明日への一言はこちらです。
・http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/7月19日-沖-大幹/
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慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
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稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
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