KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2011年11月15日

宇宙研究の最前線  村山斉さん

photo_instructor_584.jpg村山斉先生が機構長を務める「東大数物連携宇宙研究機構」は、「数学と物理が連携して宇宙を研究する」ことを目的として設立された。
近代科学を代表する思考ツールの熟達者が解明しようとする宇宙の謎は、実に素朴なものである。
・宇宙はどうやってはじまったのか
・宇宙に終わりはあるのか
・宇宙は何でできているのか
・宇宙のしくみは何か
・宇宙にどうして我々がいるのか。

一神教が「神が万物を創造した」というテーゼを提示して以来、人類は、「神の意図」「神の設計図」を、なんとか知りたいと考えてきた。その情熱が、ギリシャ哲学を再発見し、近代科学を産みだした。
その先端、いわば人類4千年の知的営みの最前線を担うのが、数物連携宇宙研究であろうか。
それにしても、宇宙は広い。
「光の速さ」という人間が認知できる最も早いスケールをあてはめてみると、そのとてつもない広さがわかる。
光の速さで、月までの距離は1.3秒、太陽までは8.3分、海王星まで4時間、太陽系の外で一番近い星まで4.2年、銀河系の中心まで28,000年、すぐ隣の銀河、アンドロメダまで250万年、宇宙の果てまでは137億年。
上記の問いが、如何に壮大(途方もない)難題なのか、直観的に理解できる。
しかし、近年の宇宙研究で分かってきたことも多いという。
ひとつは「暗黒物質」
宇宙全体の23%を占めながら、その姿を捉えられないできた謎の存在が、おぼろげながらも、輪郭を現そうとしている。
すばる望遠鏡を用いた観測技術とエックス線を使った撮影技術の組み合わせにより、目には見えない「暗黒物質」の可視化に成功したのだ。
村山先生が紹介してくれた「暗黒物質」の姿は、薄ぼんやりとしたモヤのように見える。「暗黒物質」は、宇宙に一様にあるのではなく、まばらに広がりながら偏在し、多くの銀河団に重力エネルギーを及ぼしていると想定されている。


「暗黒物質」の可視化により、「暗黒物質」を含んだ銀河団同士が衝突した時に、「暗黒物質」がどのように動くかもわかった。
これらの研究から、ある仮説が立てられているという。
「暗黒物質」は、Weakly Interacting Massive Particle(ほとんど反応しない重い素粒子)、つまり「弱虫」みたいな奴だということ。
村山先生によれば、「暗黒物質」は、宇宙誕生時に作られた極小の素粒子で、ほとんどは消滅したけれどわずかに生き残った。あまりに小さいゆえに、あらゆるものを通り抜けてしまう。だから見えない。
この仮説を証明するためには、「暗黒物質」を実際に観測するしかない。
地底奥深くの施設に、ゲルマニウム結晶を蔵した巨大な実験装置を据え、「暗黒物質」があたる(かもしれない)時に発生する「コツン」という音を拾いだそうというものだ。
村山チームを含めて、世界中の研究者が、この音を拾いうことで、「暗黒物質」の存在を証明しようと躍起になっている。
あまりに小さくて、ほとんどの場合に通り抜けてしまうので、音が拾える確率は年に2回程度。その僅かなチャンスに掛けて、世界中の研究者が、365日24時間、じっと耳をそば立てている。実際は、人間が聞くわけではないだろうが....。
研究者には、地上でビッグバンの再現をやって、暗黒物質を作りだそうとする人達もいる。LHC アトラス実験。 宇宙研究も百花繚乱という様相である。
「暗黒物質」以上に大きな謎として残されているのが、20年程前から提唱されている「暗黒エネルギー」であるという。
宇宙は常に膨張を続けている、ということは兼ねてから言われていた。そして、理屈から言えば膨張の速度は、宇宙の拡大につれて、減速していくはずである。ところが、近年の観測技術の発展から、まったく逆の事実が判明した。宇宙の膨張速度は加速しているのだ。
この事実を説明するには、「暗黒物質」だけでは不十分で、その3倍のエネルギー量を持つ「暗黒エネルギー」が想定することで、はじめてメカニズムを説明できるという。
「暗黒エネルギー」は、輪郭さえもわからない。影も見えない。
もし、「暗黒エネルギー」が宇宙膨張の速度を加速し続けるとしたら、やがて宇宙は、粉々に避けて消えてしまうことになる。村山先生が紹介してくれた「宇宙の終わり」のコンピューターシュミレーションは、その様子をリアルに示してくれる。
「宇宙の終わり」が語られはじめた段階
宇宙研究の最前線は、そんなところであろうか。
東大数物連携宇宙研究機構予算に配分される国の予算は10億円とのこと。しかし文科省が保証してくれるのは残り5年間しかない。
機構長である村山先生の悩みは、ようやく陣容が整ったこの組織を、永続的に維持していくための財政基盤をどう確立するかだという。
宇宙のロマンを語るにも、お金は大切な問題のようだ。
それにしても、人類4000年の謎を追究するのにかかる費用として年間10億円は、「驚くほど安い!」と、思ったのは私だけではないと思うのだが...。
この講演に寄せられた「明日への一言」です。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/11月15日-村山-斉/
この講演では感想レポートコンテストに応募をいただいています。
「宇宙論との接点とは」(田辺 康雄/会社員/59才/男性)

メルマガ
登録

メルマガ
登録