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夕学レポート

2012年03月16日

3.11をきっかけに、私たちの意識はどう変わったのか

きょう、4月7日から始まる【複合連鎖危機とニッポンの改革】という講座の打ち合わせで竹中平蔵さんと話をした。
その時に聞いた話が印象に残ったので紹介したい。
この講座は、竹中さん等が、震災発生直後から議論を重ねて出版した『日本大災害の教訓~複合危機とリスク管理~』という本にちなんでいる。今回の体験を、リスク管理という視点から整理し、「ニッポンの改革」課題として、世に問い掛ける場としようというものだ。
上記がオフィシャルコメントだとすると、竹中さんが、本音で多くの人に問うてみたいのは次ぎのことだという。
「3.11をきっかけに日本はどう変わったのか、そして私たちの意識はどう変わったのか」
この問いには、日本が変わることは、私たちの意識が変わることから始まるはずだという含意がある。そして、残念ながら、私たちの意識はほとんど変わっていないのではないかと危機感も滲み出ている。
その典型的な現象を、3.11一周年を期して、メディア各社が特集した震災関連番組に見たと竹中さんは言う。
「現場は強いが、中枢管理機能が弱い」
これは、ずっと以前から言われてきた日本の特徴であり、「マイクロマネジメント」は得意だが、「マクロマネジメント」は苦手であると言い換えることが出来る。
大震災に伴う複合連鎖危機のような緊急時には、その強弱が平常時以上にはっきりと浮き出てしまう。これは人間の身体と同じである。
悲劇から一年が経過し、災害経験から教訓を学ばねばならないいま、問われるべきは、防災対策の「マクロマネジメント」はなぜ機能しなかったのか。今後に備えて、「マクロマネジメント」をどう再構築するかという大きな視点であるべきだ。
にもかかわらず、メディアが報じたのは「マイクロマネジメント」の感動秘話ばかり。
例えばこれこれ
確かに、災害時・復旧時に日本人が見せてくれた現場の底力は世界に誇るべきものだし、竹中さんも番組を見れば感動する。
しかし、真の知性には、ウォームハートとクールヘッドの両面が必要である。「マイクロマネジメント」の素晴らしさを伝え、ウォームハートに訴えることを否定するものではない。しかしながら、クールヘッドにこだわり、「マクロマネジメント」の問題を骨太に取り上げる番組が果たしてひとつでもあっただろうか。


そう言われてみれば、私も先週は3.11関連の番組や特集記事を随分と目にしたが、とんと記憶にない。
「こういう問題はもっと取り上げられてよかったはずだ」という例として、竹中さんは、村井宮城県知事から聞いた逸話を教えてくれた。
3.11では、村井知事が、県下の全市町村首長の安否確認が終わるまで三日間かかった。役場が丸ごと流されてしまったのだからそうであったろう。
その間、あらゆる災害支援、復旧支援活動は始まらなかった。
なぜなら、日本の災害支援、復旧支援の制度と仕組みは、被害を受けた市町村首長からの要請からすべてが始まるように定められているからである。
市町村の行政機関が全て喪失してしまう今回のような大災害には、この制度・仕組みが機能しないことがはっきりとした。これは「マクロマネジメント」の問題として、真剣に議論されるべきことではないか。
なぜ、そういう番組や特集記事が組まれないのか。
それは、私たちの意識が「マイクロマネジメント」に向き過ぎているからではないのか。
竹中先生は、そう明言したわけではないが、私は、そういうことを言いたいのだろうなあと感じ取った。
今回のゲスト講師のひとりである船橋洋一さんは、同様に問題意識に立って、福島第一原発の事故で露呈した日本人の失敗を次ぎのように言うという。
「目の前の小さな安心のために、大きな安全を犠牲にした」
科学に絶対があり得ないと知っていながら、住民を安心させるために「原発は絶対安心です」と言ってしまう。「絶対安心」と言ってしまったゆえに、一度決めた防災システムを強化することが出来ない。だから当然取るべきであった津波対策への備えが疎かになってしまった。
大きな安全より、目の前の安心に目が向くというのは、私たちの意識の反映でもある。我が子をどの学校に入れるべきか、入念なリサーチと検討を重ねる親達は多いが、どんな人間に育てたいのかという子育てのビジョンを夫婦で議論するということはしない。
こんな時も「マイクロマネジメント」にこだわり、「マクロマネジメント」をないがしろにする。恥ずかしながら自戒である。
「3.11をきっかけに日本はどう変わったのか、そして私たちの意識はどう変わったのか」
今回の講座では、受講者への事前課題として、この問いに対する自分の見解を用意していただくことからはじめようということになった。
複合連鎖危機から学ぶニッポンの改革課題は、政治の問題、指導者の問題、社会システムの問題であると同時に、その全てに権利と責任を担っている私たちの問題でもある。

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