夕学レポート
2012年06月29日
「変わった子」の可能性 大平貴之さん
皆さんが子供の頃、クラスにちょっと変わった友人はいなかっただろうか。
好きな事には好奇心旺盛で、何でも知りたがり、やりたがる。
勉強はそこそこ出来るが、宿題は一切やらない。
モノ無くしで悪名をとどろかせ、学校で渡される保護者向け通知などは一切親に渡さない。
机の上も中もグチャグチャで、奥の方からカビた給食パンが出てきたりする。
そのくせクラスの人気者で皆に慕われる。先生も叱りとばしながらも、つい笑ってしまう。
いわゆる「よい子」の枠からはみ出し、ある所がピンと尖って飛び出ている愛すべき子供が...。
ギネス認定の世界のプラネタリウム・クリエイター大平貴之氏は、そんな子供だったという。
日本の学校教育、組織社会は、こういうトンガリ系人材の角を削り、丸く仕上げてしまうことには定評のあるシステムで、いつしかこういう人間はいなくなる。
大平少年は、幸いなことに丸くならず、トンガリ部分を残しながら、大人になっていた。
本人のトンガリ度が飛び抜けていたからなのか、周囲(親や教師など)が愛情と包容力に満ちていたからなのか、きっとその両方であったに違いない。
何がきっかけだったのかは、本人もよく憶えていないようだが、大平さんは、小学校5年生の時にプラネタリウムに興味を持った。興味を持つとすぐに動き出すのが大平少年であった。
近くのペンキ屋で夜光塗料を買ってきて、紙の上にオリオン座を描いたのが、最初のプラネタリウム製作だったという。
次ぎに、本屋でプラネタリウム工作キットを見つけると、早速飛びついた。
段ボールにピンで穴を空け、中から豆電球で光を放射すると星空のように投影されるというものだ。
星光とは程遠い、ぼんやりとした光だったが、プラネタリウムに夢中になることを加速させる効果はあった。
やがて、百科事典を引っ張り出して、本物のプラネタリウムの構造を調べ上げ、レンズ投影式プラネタリウムの設計図を書き上げてしまった。子供の手では作ることは出来なかったけれど...。
高校生になると、いよいよ熱が高まり、日大大学院生と一緒にピンホール式の高性能プラネタリウムを自作した、1万7千個の星を投影できる本格的なもので、そのへんのプラネタリウムよりも精度が高かったという。
大学四年間は、子供の頃断念したレンズ投影式機材の製作に全力を注いだ。
1年間休学して資金を貯め、指導教官や近所の金属加工工場に協力を仰ぎながら、メーカー顔負けのプラネタリウム「アストロライナー」を開発し、新聞記事になるまでになった。
全国を上映会して回り、多くの人から賞賛を受けたという。
この間、プラネタリウムだけを作っていたわけでもない。
子供の頃と同じように、好奇心が趣くままに、あれこれと発明に取り組んだ。
自転車にジェットエンジンを着けてみたり、自作ロケットを打ち上げてみたり、とにかく小さくまとまらない青年であった。
ソニー就職後も、プラネタリウム作りは続き、ついに28歳の時には、独力で「メガスター」を開発する。
これまでのプラネタリウムが、せいぜい1万~1万5千個の星しか投影できなかったのに対して、「メガスター」は、その100倍以上150万個の星を映しだしたという。
ロンドンでの国際プラネタリウム協会で発表し、世界から絶賛された。
ソニー退社後に、製作した「メガスターⅡ」は、投影星数560万個、続いて2200万個と投影星数を増やすとともに、モバイル性、エコ使用、ローコストオペレーションなど実現し、「世界で最も先進的なプラネタリウム投影機」という理由で、ギネスワールドレコードを認定を受けた(2004年「メガスターⅡcosmos」、2011年「メガスターⅡB」)
同時にセガトイズと共同開発した家庭用プラネタリウム「ホームスター」シリーズは、世界で55万台を売る大ヒット商品になった。
小さいながら大平技研という会社を構えて、プラネタリウムビジネスを生業とし、日本国内のみならず世界の科学館やイベント会場にプラネタリウムシステムを提供するまでになった大平さんの夢は、壮大なものだ。
直径1キロメートル、高さ500メートルの巨大ドームを擁し、熱核融合炉を動力源とする巨大プラネタリウム「ギガスター」を作りたいというものだ。
荒唐無稽とも聞こえる夢を、熱く説くというよりは、大ボラ咄を楽しむかのようにユル~ク語るのが大平さんの魅力である。
かつて、嬉々として設計図を描いたり、山中でロケットを打ち上げたりした時と同じように、悪戯っぽい笑顔を振りまきながら、周囲を巻き込んでいく。
ピュアでありながらもしたたか。子供のようでいて戦略家。
日本のジョブズやザッカーバーグというのは、こういう人ではないだろうか。
最新鋭機メガスターⅢは「かわさき宙と緑の科学館」でご覧いただけるそうです。
スーパーメガスターⅡAは8月に「千葉県立現代産業科学館」で観ることが出来る予定だそうです。
PS.
受講された方より、「メガスターⅡcosmos」「メガスターⅡB」がギネスの認定を受けたのは、投影星数というよりは「世界で最も先進的なプラネタリウム投影機」という理由からではないか、というご指摘を受けましたので、修正をさせていただきました。(2012/7/4 記)
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