夕学レポート
2005年11月01日
企画とは「記憶の複合」 おちまさとさん 「企画脳の作り方」
「イノベーションとは、“新しい組み合わせ”である」何年か前にイノベーション研究の第一人者といわれる経営学者に聞いた言葉です。きょうの、おちまさとさんの話を聞きながら、この時の記憶が想起されました。
10才の時、映画『ジョーズ』を観て、将来の仕事は、スクリーンの向こう側(制作者側)に立つことだと決断したという早熟の天才企画マンおちまさとさんの話が、お堅い職業の代表である大学教授の講義とつながる一瞬でした。
そして、はからずもこれがきょうの主題「企画脳」の本質にかかわる現象でもありました。
おちさんは、「企画とは“記憶の複合”である」と喝破します。脳の奥底にしまい込んだ、無数の引き出しの中から、まったく異なったいくつかの記憶を引っ張り出し、いまここで起きていることに結びつけて新しい何かを創り出すこと。それが企画だというわけです。そのためには、漫然と日々を過ごすのではなく、常に感性のスイッチをスタンバイ状態にしておくことが重要です。何げない日常の中に埋め込まれたおもしろネタを掬い取っていくためには、漫然としているのではなく、アンテナを張っている必要があります、かといって、いつも緊張状態で全神経を研ぎ澄ましている「ON」の状態ではなく、あくまで「スタンバイ」状態がよいとのこと。おちさんはこれを「なにげの臨戦態勢」というわかりやすい表現で説明してくれました。
それでは、どういう時に「記憶の複合」が起きるのでしょうか。おちさんによれば、黙って考えていても駄目で、きっかけが必要なようです。おちさんにとって、そのきっかけは、インタビューや講演が提供してくれるそうです。インタビュアーの質問に答えるために、そして、講演で話していくうちに、自分の知識や記憶を抽出し、整理・統合していくプロセスで、「あッ!俺ってこんなこと考えていたんだ」という本人も気づかないような発見があるそうです。話しながら自分に気づくという現象は、我々もよく体験することですよね。カウンセリングもこれとよく似た効果があります。以前、夕学で精神科医の和田秀樹氏が、「人間の記憶は、入力(理解すること)→貯蔵(復習すること)→出力(他者に伝えること)で強化され、知識に転化する」お話されたことがありますが、これもよく似た話ですね。従って、おちさんにとって、きょうのような講演は、我々のノウハウを伝達する場であると同時に、聴衆の表情や反応という「おもしろネタ」を仕入れる場であり、また「記憶の複合」=企画のアイデアを思いつく場でもあるわけです。一石三鳥ということでしょうか。
「ポジティブプランニングとネガティブシミュレーション」の話もよかったですね。発想は、楽しく愉快に大きく広げるけれど、形にする時には、本当にこれでいいのかと批判的に現実案に落とし込んでいく。この繰り返しで企画を練り上げていくのでしょう。きょうの講演でも、おちさんの事前の準備は入念でした。プロフィールシートにどんな情報をどこまで載せるべきか、配布資料には何を入れるか、ビデオは何本どのタイミングで流すのか、どういうシチュエーションで登場するのか、最も効果的にサプライズが起きるように
すべて計算していました。最後の名前(漢字)のネタがその象徴でしたね。
最近のおちさんは、商品開発や建物プランニングなど企業とのプロデュースも積極的に行っているとのこと。おちさんにとっては、ビジネスの世界や組織人と触れあうこと自体がおもしろくてたまらないようです。
きょうの「夕学五十講」の様子がおちさんに内蔵されて、いつの日か「記憶の複合」で蘇り、新しい企画に花開くこともあるかもしれませんね。
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