夕学レポート
2012年07月26日
建築家の意志 槇文彦さん
西洋美術史家の池上英洋氏によれば、ルネサンス芸術に”ルネサンスらしさ”を付与している特徴は、「空間性」・「人体理解」・「感情表現」の三要素だという。
遠近法に代表される絵画技法の発達はもちろんのこと、「奥行きを創出しようとする意識」が、立体的な空間表現の源泉になった
人間の身体の構造や筋肉の動きを、より忠実に表現しようという「人体把握への意識」が瑞々しい写実性を育んだ。
人間の悲しみ、怒り、喜びといった感情表現をそのまま再現しようとする「感情表現への意識」があればこそ、観る人のこころを揺さぶる絵画・彫像を作ることが出来た。
「空間性」・「人体理解」・「感情表現」
この三つの意識を、ルネサンスの芸術家が獲得したことによって、かのダヴィンチをして、
「わたしたち画家は、芸術作品によって、”神の子孫”とみなされてよい」
と言わしめた、高らかなルネサンス宣言につながった。
この世界の万物を創造した神と同じように、芸術家は、絵画という作品を通して、神が作り賜うた人間や自然を再創造することが出来るようになったのだ。
前置きが長くなってしまったが、槇文彦さんの建築作品を拝見すると、これとよく似た「意識」というか「意志」を感ずることができる。
まったくの素人の論評という前提を置かせてもらうが、わたしは、槇さんの建築作品に、いくつかの共通点を感じた。
どの建築も、天井高が高く、吹き抜けを多用している。階層の”際”を感じさせない広がりがある。
窓がやたらと大きく、しかも天井から床近くまで、ガラス面が配置されている。外部との”際”を取り去った開放感がある。
例えば、これやこれ。
これらの特徴によって、建築から「空間・開放感・オープンネス」を感じ取ることが出来る。建築とは、人間の創造的な活動や思索、あるいは交流・コミュニケーションといったつながりを産み出す装置であるべきだという「人間理解」に根ざしているように思える。
「空間」そのものを楽しむ。
「空間」の使い方を楽しむ。
「空間」があることで生まれるものを楽しむ。
そんな豊かな人間性、感情を大切にしたいという、建築家の意志を受け取ることができる。
もうひとつの共通点は、どの建築も「白い」ということだ。
ギリシャのパルテノン神殿やローマのコロッセオに、どこか似ているように感じたのは気のせいだろうか。
ルネサンスの芸術家達は、古代ギリシャ・ローマの世界に、自らのクリエイティブの範を求めた。槇さんの作品にも、同じ精神があるのではないか。
「Fumihiko Maki」という建築家が、世界で評価される所以のひとつかもしれない。
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