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夕学レポート

2013年01月16日

経営の大局をつかむ  山根節さん

photo_instructor_631.jpg監査法人の会計士7年、経営コンサルティング会社の経営者12年、博士号の取得を挟んでビジネススクールの教員18年。山根節先生は、MBAの教授として理想的なキャリアを積んできた人である。
そんな山根先生が提唱する「ビジネスリーダーに必要な能力」は
情報リテラシー会計リテラシー
の二つである。
1)情報リテラシー
情報を知識として捉えるのではなく、変化の兆候を示すサインとして認識すること。
鋭敏な現場感覚で本質を掴み、今後の方向性を決めて、発信すること。
昨日の佐々木毅先生の言葉を借りれば「見立て」能力になるのかもしれない。
情報はスナップ写真でしかない。
動きの一瞬をとらえた写像なので、1枚見ただけでは本質はわからない。
しかし、何枚かをつなげて見ることで、他の写真と比較して見ることで、表面からは見えない動きを推察することができるかもしれない。
それが情報リテラシーであろう。
残念なことに、山根先生は、日本の大企業トップは情報リテラシーが弱いという認識を抱いているようだ。
2)会計リテラシー
会計数字を知識として捉えるのではなく、「何で儲けているのか、何にお金を使おうとしているのか」という企業戦略を読み解くカギとして使うこと。
山根先生は「健全なドンブリ勘定」という独特の表現を使うこともある。
会計数字は企業経営の結果でしかないので、数字から企業活動のプロセスや経営の意図はわからない。
しかし、他企業・産業と鳥瞰的に比較し、経年の変化を分析することで、その結果を生み出したプロセスや経営者の意図を推察することができる。
それが会計リテラシーである。


山根先生は、情報リテラシーと会計リテラシーを駆使して、企業や産業という素材を料理することで、立体的な経営が読み取れるという。
「経営の大局をつかむ」という所以である。
山根先生が使うツールはシンプルである。
毎年日経新聞が発表する上場企業の「経常利益ランキング表」と、それを基に、経常利益額の大小と経常利益率の高低を2軸にとったマトリックスを使って企業を分類するマップ=「産業マップ」
これを経年比較して見えてくるものに、情報リテラシーで掴んだ「現場感覚」「方向性」を
重ね合わせることで産業の潮流が読み取れるという。
産業マップ.pdf
もうひとつは、企業のBS、PLを大胆に図解化した「BS・PL比例縮尺図」
この図から見えてくるものに「現場感覚」「方向性」を重ね合わせることで、「何で儲けているのか、何にお金を使おうとしているのか」という企業戦略を推察することができる。
縮尺図.pdf
講演は、情報リテラシーと会計リテラシーを使って、山根先生が読み解いたこれからの産業潮流についての解説が中心になった。
山根先生が認識する潮流のひとつは、新興国の中間所得層にターゲットを絞って揺らがない企業が最後に笑うだろうということであった。
昨秋の反日運動の激化から、日本の中国投資は慎重な方向へかじ取りが変わったことは間違いないが、山根先生の認識はあくまでも”攻め”であった。
「中国撤退は絶対にない」と断言するユニクロ柳井社長
インドの労働争議は不可避の課題として乗り越えねばならないとしてぶれることがないスズキの鈴木会長
山根先生が賞賛する経営者である。
さらにITにかかわる潮流にも触れていただいた。
IT革命はまだ過渡期であるという意識を忘れるなということであった。
気を抜くとオセロゲームのようにプレイヤーの顔ぶれが変わる。現にヤフーもスタートトゥデイもスマホ対応に乗り遅れてしまった。これからも同様の変化は起き続ける。

変化は、終わったのではなく、渦中である。
しかも、これからの変化は、これまでの変化より大きく、そして加速される。
変化に適応して自分を変えていくのか、適応するのを放棄して田園暮らしに帰るのか。国家も、企業も、個人も、その選択を迫られている。

そう喝破した夏野剛氏の夕学を思い出す。
変化が激しいにもかかわらず、現場感覚が鈍いトップを戴く日本企業はどうすればよいのか。
山根先生は、日本のサービス品質の高さに可能性を見ている。
トヨタやソニーも、実はサービス(金融)が利益を支えている。日本のディズニーランドは世界No1の評価を得ている。世界が日本のサービス業に熱い視線を送っている。
MKタクシー、KUMON、婚活サービスなど、日本発のサービス業がビジネスモデルごと海外に進出しつつある。
日本のサービス品質は、知的レベルの高い中間層のチームワークによって成り立っている。これはマニュアルではコピー出来ない。新興国が最も真似をしづらいビジネスモデルとのこと。我々は自信を持っていい。
慶應MCCもサービス業だと思っている。知的レベルの高い社員のチームワークによって支えられているビジネスだと自負している。
情報リテラシーと会計リテラシーを駆使すれば、以外と身近なところにチャンスは芽吹いているのかもしれない。

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