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夕学レポート

2013年01月22日

コンセプトが変われば会社が変わる 谷田大輔さん

photo_instructor_635.jpg1985年谷田大輔氏が社長を引き継いだ時、タニタは大手メーカーのOEM生産を請け負うアッセンブリメーカーであった。
電気事業部ではトースターを、ライター事業部では卓上ライターやキャンドルライトを、
秤(はかり)事業部では体重計やクッキングスケールを作っていたという。
素人が考えてもトースターやライターに明るい展望があったとは思えない。事実赤字状態だったという。
谷田氏は比較的順調だった秤事業への絞り込みを行い、トースターやライターは撤退した。いずれも戦後間もない頃からタニタの経営を支えてきた歴史ある事業で、役員の反発は大きかった。
秤(はかり)の中でも、体重計にフォーカスし、板橋にあった製造工場は秋田に移転した。これにともない工場社員全員が退職する事態となった。
これまでのしがらみを取り除き、血を流した改革によって、「体重計のタニタ」というコンセプトは確立した。
同じ頃、アメリカに進出、不良品を出し、返品の山に苦しみながらも、谷田氏は中古車を駆って全米を見て回った。さまざまな会社を訪れて気づいたのは、事業とは、商品そのものではなく、消費者のどんなニーズに応えるのかということだった。
タニタは、「体重計ビジネス」から「体重ビジネス」へとコンセプトを変えた。
谷田氏ははっきりと言わなかったが、「体重を測定する計器をつくること」を事業とするのではなく、「体重を維持・管理するための習慣をサポートすること」を事業にするということではなかったか。
体脂肪計や体組成計機能付きの体重計に絞り込んで業績を伸ばすと同時に、体重科学研究所やベストウェイトセンターなどの関連施設を設置した。
体重科学研究所では、体重と体脂肪についての情報を集め、研究を統合し、肥満解消と健康を科学すると同時に、積極的に研究成果を学会発表し、体重管理や脂肪のコントロールのインフォメーションを広く社会に提供している。
講演の冒頭で谷田氏が話してくれた健康と体重にまつわる話が随分と面白かったのは、この研究所の知見が生きているからであろう。


ベストウェイトセンターでは、栄養士やインストラクターも雇い、食堂やジムを併設した。健康管理のための食事指導や運動、料理を提供することで、顧客の肥満管理を行った。
体重管理や脂肪のコントロールの研究で培った知見を、社会に実践指導することを目指したということであろう。
やがて、タニタは、ヘルスメーター売上で世界No1のシェアを獲得する。
この過程で体重ビジネスという事業コンセプトは「健康ビジネス」に進化する。
健康のために「体重をはかる」ことにあきたらず「健康そのものをはかる」ことへの発展である。
血圧計、睡眠計、尿糖計、活動量計、歩数計等々。
健康ブームの中ではかるべき健康指標はいくつもある。これからも出てくるだろう。
谷田氏がどこまで意識していたかはよくわからないが、やがてタニタの知名度を一気に上げることに貢献する「タニタの社員食堂」も、健康ビジネスという事業コンセプトの延長線上に位置づけることができるであろう。
ベストウェイトセンターは赤字続きで、閉鎖を余儀なくされたが、そこにいる熟練の栄養士や調理スタッフを活用して、社員の健康管理をミッションとする社員食堂が誕生した。
ベストセラー『タニタの社員食堂』を読むと、食堂開設当初は、500kカロリー定食に対して、「味が薄い」「量が少ない」という大反発が起きたという。
この声に応えつつ、薄味でも美味しく! 500kカロリーでも満腹に!というメニューを工夫していったことが、やがて豊富なレシピとして花開いていくことになった。
いま、タニタのホームページには、「健康をはかる」から「健康をつくる」へ、というタニタの事業コンセプトの進化宣言が謳われている。
これはおそらく現社長のご子息が打ち出したものであろう。
書籍の大ヒットから「丸の内タニタ食堂」へという展開は、この文脈で読み解くと、なるほどと感心する。
書籍や食堂は、収益にはそれほど貢献しないと聞くし、谷田氏も、必ずしも賛同していないようだが、「健康をつくる」というタニタのメッセージを社会に広く知らしめる効果は抜群であろう。
下請けメーカーから秤の専業メーカーへ
体重計ビジネスから体重ビジネスへ
「健康をはかる」から「健康をつくる」へ
事業コンセプトを変えることで会社を変えていくというタニタの動態的企業精神は着実に受け継がれているように思う。
それが、当事者同士は意図していないという偶発的必然もまたユニークである。

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