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夕学レポート

2013年06月12日

中国はいま  国分良成さん

photo_instructor_655.jpg意図したわけではないけれど、習近平の訪米が大きな話題になった直後のタイミングに設定された国分良成先生の講演は、実にタイムリーな企画となった。
昨年の反日暴動と尖閣問題の緊迫化を経て、日中関係はかつてない相互不信状態に陥っている。
「中国はとても大切な国ではあるけれど、いったい何を考えているのか理解できない」
それが我々一般人の率直な感覚である。
この時期に、現代中国研究の第一人者の講演は願ってもない機会である。
今朝の新聞では、米中首脳会議で習近平が、尖閣は中国にとって「核心的利益」であると表明したという記事が掲載されている。
奇しくも、国分先生の現代中国解説も「核心的利益」とは何かに言及することから始まった。
「核心」という言葉の含意は「ひとつに絞る」ということ。つまりいろいろと大切なことはあるけれど、その中からもっとも大事なひとつに絞り集中する。それ以外は妥協や手打ちもやむなしと割り切る。
それが「核心的利益」の意味だという。
では、現代の中国における「核心的利益」とは何か。
それは、現体制(共産党による一党独裁支配体制)の維持に他ならないと国分先生は喝破する。中国共産党が国家を率い、軍を統べる「党国体制」を維持することこそが、もっとも大事な利益だという。
見方を変えれば、それだけ危機的状況に陥っているのかもしれない。現体制による反政府勢力に対する強圧的な抑え込みは、文革時代や天安門事件後を彷彿とさせるほど異常なものだという。無理に無理を重ねている状態だと、国分先生は見ている。
なぜ、そこまで強圧的になるのか。
理由は、この20年間党国体制で推進してきた「社会主義市場経済体制」の限界がはっきりと見えてきたことに他ならない。


住宅バブル、投資過多、雇用不安、賃金上昇、輸出不振、金融財政制度、環境劣化等々。
中国経済の問題をあげれば枚挙にいとまがない。
一方で、汚職は蔓延し、市場の透明性はなく、所得の再分配も進まない。
世界の経済大国として胸をはるために必要な民主的な改革がどうしても実現できない。
その理由は、改革を阻む既得権益層が、共産党の幹部層と限りなく重なっているからである。
この10年、胡錦濤体制が標榜した「和諧社会建設」というスローガンは、軟着陸的な改革を進めて、社会の矛盾を解消しようという試みだったが、それは失敗に終わった。
昨年の中国共産党第18回党大会は、胡錦濤(共青団系)の全面敗北、江沢民(上海派)・曽慶紅(太子党)の全面勝利で決着し、新体制には、いわば帽子のような形で習近平が乗っかったというのが国分先生の見立てである。
彼ら(反改革派=既得権益層=共産党の幹部層)は、現体制の維持を「核心的利益」として共有化し、内部に対してはますます統制を強化する。不満の吐け口としてナショナリズムを煽り立てる。昨秋の反日暴動や尖閣海域へ船舶新入はこういう文脈の中で起きた。
いまの中国の対日政策は、江沢民時代に類似しているという。
「何でもかんでも日本が悪い」という、近代以降の日本を全面否定する戦略である。
戦略的互恵関係は遠い昔の話になってしまった。
こうしてみると、中国の現体制はいずれ崩壊するのかもしれない。力の支配は長続きしないことは古今東西の歴史が教えてくれる。
しかし、やっかいなのは、中国経済にリセッションが起きると世界へのマイナス波及を避けられないという現実が一方に現前することだろう。日本も、アメリカも、EUも、この20年ですっかり中国に入れ込み過ぎてしまった。
中国経済に民主的な改革は必要だと世界中が思っているが、改革を一歩間違えば世界中が大怪我を負うこともまた知っている。
中国に対する日本人の認識は錯綜している。
友好論、脅威論、対抗論、是々非々論などなど。
恐らく、そのどれもが正しく、どれもが間違っている。そう簡単に論じられる国ではないだろう。
間違いないのは、日中関係は極めて重要であること、しかし極めて危うい状態であることという現状認識のようだ。
何はともあれ、冷静であることが不可欠だ。

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