KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2013年07月26日

災害は減らすことができる 大木聖子さん

photo_instructor_663.jpg地震も台風も自然現象であって、それだけでは災害ではない。
人や社会があるから災害が発生する。
だとすれば
人間が変わったり、社会を強くすることで、災害は減らすことができる。
それが、学際的な立ち位置で地震学を研究する大木聖子さんの考え方である。
地震に対する人間の意識と行動を変えること、地震に対して社会を強くすること、そのために災害情報の流し方、防災教育、災害科学コミュニケーションの等々の研究と実践を行っている。
講演は、人間が持つ特徴を説明するところから始まった。
「地震に対する人間の意識と行動を変えること」が大木さんの地震学の目的ではあるが、人間には変えられないものもある。
生物としての人間が、環境変化に適応し、生命を繋いできた過程で、何万年もかけて身につけた心理的特徴は簡単には変えられない。
それを心理学では「認知バイアス」というが、大木さんによれば、地震に対してもいくつかの「認知バイアス」に縛られているのが人間のようだ。
正常性バイアス 「まあ、大丈夫だろう」
何か緊急事態が発生しても、大丈夫だ、落ち着こう、という自己抑制的な心理が働くこと。
地震速報を聞いた時、私たち人間は無意識にそう思い込もうとする特性を持っている。
同調バイアス 「みんな逃げていないし」
いざ、という時に自分以外の周りの大勢に合わせようという心理が働くこと。
逃げた方がいいかな、と感じても、周囲が逃げなければそれに従おうとするのが人間というものだ。
「まあ、大丈夫だろう」と「みんな逃げていないし」が組み合わさると大惨事に陥る可能性が高まる。
「認知バイアス」は変えることは出来ない。しかしそういうバイアスがあることを知っていれば、いざという時に自分を客観視できるかもしれない。
大丈夫と思う自分を疑う、周囲に合わせようという自分を否定することで、「地震に対する人間の意識と行動を変えること」ができる。
地震が起きたら、まず逃げる。誰よりも先に、皆に声を掛けながら。
結果として何も起きなければ、それが一番いいのだから。
大木さんの最初のアドバイスである。


講演では、地震の正体についても説明してくれた。
地震が発するエネルギーの大きさを表すのに「マグニチュード」という指標を使う。私たちは地震の震源地から遠心状にエネルギーが拡散していくような錯覚を抱きがちだが、実際は違うという。
地震は「点」ではなく「面」でおきる。
マグニチュード7の阪神淡路大震災(1995年)は、50キロ×20キロの範囲で1メートルの断層が発生した。それに対してマグニチュード9の東日本大震災は、500キロ×200キロに渡る範囲で10メートルものズレが起きた。ケタ違いに広い範囲で災害が発生した所以である。マグニチュードが1違うだけで、地震エネルギーの差は1000倍にもなるという。
世界の地震の10%は日本で発生しているというが、日本列島の中でも「地震がない」と信じている地域(県)の人はいる。
大木さんは、この認識に対しても警鐘を鳴らす。
確かにマグニチュード8~9の地震は、発生可能性のある地域が特定できるが、マグニチュード7クラスの直下型地震(阪神淡路大震災タイプ)は、どこで起きておかしくないという。
残念ながら地震というのは典型的な「複雑系」で完全な予知は出来ない。東日本大震災の破壊力も、地震学者の想定を越えるものであった。
たかだか1500年の人類の歴史や経験に基づいた常識は疑ってかかった方がよさそうだ。
ただし、マグニチュード7までの地震は、事前の対策を取れば災害を大きくせずにすむことが出来るという。
地震でなくなる人の死因はモノが落ちる、倒れる、つぶれることによる圧死である。これらの災害は、建物の耐震補強、家具の耐震固定によって防ぐことができる。
「地震に対して社会を強くすること」が出来る領域と言えるだろう。
私たち素人が、マグニチュードの大きさを推定する簡便な識別法は、「揺れの長さ」だという。
1分以上揺れたら津波が来るのを心配した方がよい。
2~3分以上揺れたら、すぐに逃げるべき。
「地震に対する人間の意識と行動を変える」ための大木さんのアドバイスは最後まで具体的であった。

メルマガ
登録

メルマガ
登録