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夕学レポート

2013年11月19日

生きるらしく生きる 長谷部葉子さん

「コンテキストのズレを解消することに慣れていない」
かつて夕学で、劇作家の平田オリザさんは、日本人のコミュニケーション上のウィークポイントをこのように表現した。
コンテキストとは、「国柄や地域・文化によって異なる個性」と言い換えることが出来る。「その人の価値観」と言ってもよいだろう。
私たちは、よく知らない人、わからない人と、目的が不明確なまま関係を形成していくことが決定的に苦手である。
要は異文化との接点を上手くやるコツがわからないわけだ。
http://www.keiomcc.net/sekigaku-blog/2010/04/post_362.html
photo_instructor_703.jpg「異文化との接点を上手くやるコツ」
これを研究・教育の主軸にして、徹底的な実践主義で取り組んでいるのが慶應SFCの長谷部葉子先生である。
異文化との接点といっても、相手が外国人とは限らない。コンテキストのズレ、価値観の違いは、同じ場所に生きる人、例えば家族間であっても生じる。
価値観が違えば、思い描く絵も違う。同じものを見てもイメージする世界は異なる。だからこそすり合わせと共有化が必要になる。
「異文化との接点を上手くやるコツ」というのは、価値観が多様化した成熟社会で生きる私たちにとって必須の基本リテラシーと言えるだろう。


では、異文化との接点を上手くやるコツをどう身につければよいのか。
長谷部先生は、「生きるらしく生きる」ことを知ることで、身体知的に身につくと考えているようだ。
「コンゴAcadex小学校プロジェクト」というのがそれだ。
「生きるらしく生きる」というのは、生きていくためにどうしても必要なことを中心に生活することをいう。一日の80%の時間を生きるための使う生活のことだ。
コンゴでは、朝は水汲みから始まる。まずは一日の生活で使う水を、自分で汲み上げなければならない。当然洗濯は自分で手洗いしなければならない。シャンプーは5日に一度しかできない。
研修で過ごす学生達も「生きるらしく生きる」生活に否応なしに放り込まれる。
人間の五感を、生きるというシンプルな目的だけに使うことで生きている実感が味わえるという。同時に生きるための観察眼も磨かれる。
困った時に誰に聞けば助けてくれそうか、どうやって伝えればわかってもらえるか。周囲の行動や人となりを察知して、適応しないと生きていけない。
この感覚は都市生活者には失われた野性的な感性だという。
表現力も磨かれる。
例えば日本人に「今度の休みは何がしたいですか」と問えば「好きなことをして過ごしたい」と答えるだろう。
若者に「将来なにをしたいのか」と聞けば、「人を笑顔にする仕事」と答える人が多い。
好きなことは何か、どうやって笑顔にするのか、具体的な内容を最初から言う人は少ない。
こころの中にあるホントのことを伝えようと思うと言葉にならない。なぜなら普段使っていない表現だから。
長谷部先生は、そう見ている。
「生きるらしく生きて」いる人達には、その衒いがない。
欲しいもの、やりたいこと、嫌なことをはっきりと伝えてくる。生きるためにはそれが伝わらないと何もはじまらないから。
学生達は、コンゴプロジェクト2週間の滞在で、戸惑いや失敗を繰り返しながら、「生きるらしく生きる」感覚を理解し、それに順応できるようになる。
「異文化との接点を上手くやるコツ」はこうして身につけられていく。
「コンゴAcadex小学校プロジェクト」は6年を経て、何棟かの校舎が建ち、授業が開発されてきた。
しかし、まだまだ途上でしかないという。
コンゴの人達との関係性構築の基盤は出来た。しかしプロジェクトを通して「これまでにない新しいもの」を作るところまではいっていない。
日本の技術やメソッドをコンゴに持ち込んだ段階で止まっている。
異質な人々同士が、共通の目的をもって、新しい価値を創造すること。
「コラボレーション」の実現がプロジェクトの目標だと、長谷部先生はいう。
慶應SFCのビッグママがやりたいことは、まだまだたくさんありそうだ。

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