夕学レポート
2013年11月21日
自分のアイデアで社会を変える。 駒崎弘樹さん
社会起業家という言葉をはじめて聞いたのは7年前の夕学だった。この言葉と概念が日本で広がるうえで大きな役割を果たした慶應SFCの金子郁容先生に教えていただいたのが最初だった。
日本の社会起業家の実例として、金子先生が真っ先にあげたのが、起業間もない頃の駒崎弘樹さんであった。
http://www.keiomcc.net/sekigaku-blog/2006/07/post_121.html
その時、金子先生は4つの条件を使って社会起業家を定義した。
1. 社会をより良くしようというミッション性が明確にある。
2. 経済的リターン(利潤)と社会的リターンの両立ができること。
3. 継続的な事業として社会の問題を解決していくこと。
4. イノベーションを実践していること
今回、駒崎さんの講演を聴いて、社会起業家に対する私の認識が、7年前に出来上がった枠組みに縛られていたことに気づいた。
社会起業家というのは(特に日本では)、小さくてもキラリと光る「草の根型」の組織を起こし、営む人達である。そう思い込んでいた。
駒崎さんは、もっとスケールが大きくて、したたかな人であった。
自分の力が及ぶ範囲でコツコツと社会を変えると同時に、自分がテコになりもっと大きな範囲で社会を変えていこうとしている。
草の根型ではなく、「レバレッジモデル」と言った方がいいかもしれない。
確かに、駒崎さんのフローレンスは、病児保育という日常の問題に目を向けた草の根型からはじまった。生まれ育った東京下町江東区ではじめたビジネスモデルである。
子育て経験豊富な主婦を組織化し、地域医療機関と連携してレスキューネットを構築する。利用者は掛け捨ての月会費を払うことで、いざという時にレスキューネットを利用できる。利用者の使い勝手のよさ、会費による安定収入を両立した画期的なアイデアである。
フローレンス設立から2年、悪戦苦闘の末なんとかモデルが回り始めた頃に、厚労省の役人が「話を聞かせて欲しい」とやってきた。
それから数ヶ月後、「緊急サポートネットワーク事業」という業務委託事業を、国が開始するという記事が大手新聞に掲載された。
「やられた!」 「国(厚労省)にアイデアをパクられた」
駒崎さんは憤慨したという。
しかし、社会事業に長年携わってきた先輩から諭された。
「これは怒るのではなく、喜ぶべきこと」
「日本の社会保障制度の多くはそうやってはじまったのだから…」
行政が運営する児童養護施設や知的障害者施設のモデルは、民間の篤志家がはじめた孤児院や福祉施設にあった。
民間人が志をもってはじめた社会事業を国が取り入れ制度化したことによって全国規模に広がったものだ。
駒崎さんはこの話を聞いて、大胆な発想転換をしたという。
自分がアイデアをだし、小さな成功モデルをつくる。そのアイデアを国にパクってもらい制度化する。そうすれば、全国規模の社会インフラをつくることができる。
自分のアイデアで社会を変える。
社会起業家という概念の拡張が起きた瞬間であった。
次にはじめた「おうち保育園」という小規模保育事業は、政府の待機児童対策政策に採用され2015年度から全国展開されることが決まっている。
「自分のアイデアを国にパクってもらい制度化する」ことを狙って、駒崎さんが意図的に仕掛けたものだ。
以来、駒崎さんは内閣府の政策調査員や厚労省の政策審議委員になって、政策に積極的に関わっている。
社会起業家としての活動範囲を更に広げようとしているのかもしれない。
ただし、フローレンスのアイデアを使えば、すぐに上手くいくほど甘い世界ではないようだ。NPOといえども数値管理はするし、泥臭い仕事の積み重ねでしかない。
徒弟式に修業した人でないと、他地域でフローレンスモデルを成功させることは難しいという。
アイデアはアイデアでしかない。アイデアを実現することで社会の問題は解決できる。
草の根型の原点は失ってはならない。
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