夕学レポート
2013年11月26日
自分の脳で考える おもてなしとサービスということ 宮崎辰さん
講演前、楽屋に入ると、宮崎さんはすでに少し前に到着されていて、舞台上でデモンストレーション用の丸テーブルと椅子を並べられていた。「おー」感嘆。立ち姿、所作がなんて美しい方だろうと思った。
次に、品よく、おすまししているテーブルと椅子の姿に驚いた。ふだん使いのとりたてて特徴のないものなのだが、宮崎さんの手によって整えられた家具はいつもとまったく違う美しい表情をしていた。
ご挨拶しながら、素直にいまの感想を言うと、宮崎さんは小さく微笑まれて(ような気がした)、手元の紙ナプキンをこう、ではなく、こう、と動かして見せて、「そうなんです。ほんの小さな差。それこそが大事なのです。」とおっしゃった。
宮崎辰さんは、恵比寿にある三つ星レストラン、ジョエルロブションのプルミエ メートル ドテルである。
メートルとは、レストランにおけるサービスのプロフェッショナル、と説明される。私も講演の冒頭でそう紹介した。しかし宮崎さんのお話を伺ってわかったのは、メートルとは、 “サービス”と”おもてなし”のプロフェッショナルである、ということだった。
サービスとおもてなしは違う。宮崎さんはこう説明される。
サービスは、形に見えるが、おもてなしは、見えない。
サービスは、結果としてお金が発生するが、おもてなしには、お金が伴わない。
そしてサービスとおもてなしを「融合」するのがメートルである。
サービスとおもてなしのどちらを選ぶか、どちらを優先するかではなく、融合してはじめて価値が成る。お客様、空間、シェフ、料理etc すべてのものがメートルを介すという。だからこそ、メートルが実現できる価値があるのである。メッセージはシンプルだが実践しようとすると、実に多様で高レベルな知識、スキル、気配りが求められることは明らかである。やはりザ・プロフェッショナルである。感嘆。このあたりのことについて関心ある方はぜひ、宮崎さんの著書を手にとっていただきたい。
では、おもてなしとは、何だろうか。宮崎さんはお話のなかで、なんとおりかでお話してくださったと思うのだが、私はこの言葉がそれを示しているのではないかと感じた。
答えは、お客さまにしか、出せない。
さいごは、接した人間でしか、わからない。
自分の脳で、考えるしかない。
ところで、宮崎さんのメッセージはクリアだった。構成と内容を準備されていらしたわけではないというが、話し方、言葉の選び方には迷いがない。努力やこだわりの様から、ご自身にもきわめて厳しい方であることも伝わってくる。
それでいて、話し方は、優しくやわらかく、間合いが心地よい。苦しさや厳しさを感じさせない。そこがまた美しい方なのである。それほど常に無意識であるだろうところまで美しくあるには、それだけの努力や積み重ねや哲学があるのである。学ばせていただくことのたくさんある、まさにプロフェッショナルな方だった。(湯川真理)
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