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夕学レポート

2013年12月05日

個別政策は全て間違っている。しかし出てきた結果は正しい  小幡績さん

photo_instructor_698.jpg小幡先生は、今年4冊の本を出した。
「私がひとりで言っていることですが...」という自虐ネタを振ったうえで、ご本人曰く
オバタの四本の矢!!
1月に『リフレはヤバイ』
5月に『ハイブリッド・バブル』
8月に『成長戦略のまやかし』
10月に『やわらかな雇用成長戦略』
いずれもアベノミクス批判を展開している。
前の二冊では、リフレ政策と金融緩和の誤りと危険性を説き、必然の結果として起きた国債と株式の価格上昇をバブルだと断じた。
アベノミクス一の矢、二の矢への反論展開であった。
後の二冊では、官僚主導型の成長戦略の不毛性を訴え、小幡案の成長戦略を提案した。
アベノミクス三の矢への批判と代替案の提示と言えるだろう。
きょうの講演は、この4冊の本の主張をベースにしたものであった。
当初は賑やかだった反アベノミクス論者が、株価上場と円安の進展によって声を潜めていく中で、一人気を吐き、意気軒昂に見える小幡先生には、株価や円が乱高下する度に経済記者がやってきたと言う。
「いよいよアベノミクスの化けの皮がはがれ始めた!」というコメントを期待してのことである。
はぐらかすわけではないけれど、小幡先生の返答は相手の期待とは異なるようだ。
個別政策は全て間違っている。しかし出てきた結果は正しい。
これが、アベノミクスへの小幡先生の評価である。


高血圧、肝機能数値の悪化、コレステレロール値上昇という健康診断結果が何年も続いてきた(しかも少しずつ悪化して)。そうこうするうちに周囲の人間が「アイツは危ない」と騒ぎだし、自分でも「ひょっとしたら俺はもうダメか」と自信を喪失し、活力もなくなった。
それが、怪しげなカンフル剤を飲んだところ、なぜか元気が出て、顔ツヤがよくなった。
それを見た周囲の人達が、「アイツは元気になった」と勘違いし、本人もその気になって活動的になりつつある。
日本経済とアベノミクス効果を他に喩えるならば、そんな感じだろうか。(あくまでも私の解釈ですが)
手段は間違っているが、結果は合っている、ということはよくあることだ。
注意すべきは、結果が良いからといって、手段もよかったと勘違いすることではないか。
小幡先生によれば、
アベノミクスはショックセラピーのようなもの。変わったのは気持ちだけで、日本経済の本質的問題はなにも改善していない。
過度な悲観論から脱却して、当たり前の状態に戻ったまで。
この調子でこの先もよくなっていくかはわからない。
ショック療法が効くには1回だけ、カンフル剤には身体が慣れてしまう。
いまは効いているようにみえても、ショックやカンフル剤、まやかしの薬で健康体に戻れるはずがない。
にもかかわらず、「この方向で進めれば昔のように元気な身体に戻れる」...かのような幻想的期待に寄りかかっているのではないか。
それが小幡先生の見立てである。
では、どうすればよいか。
幸運にも、日本経済が身の丈の実力にあった水準まで戻ったのだから、これから先は政府に期待してもダメ。自分達でやらなければならない。
やるべきことは、「質の高い労働力を育てる」ことに尽きる。
それが唯一の成長戦略である。
例えば、日本が世界に誇るエンジニアを育んできた工業高専のような高度専門学校を、農業、漁業に広げることは出来ないか。
さらには新世代型の日本の強みであるクールジャパンの領域(アニメ、漫画、ゲーム)にも高度専門学校が必要だろう。
エンタテイメント、レストラン、スポーツビジネスと広げるべきウィングはたくさんあるはずだ。
ヤバイ、ハイブリッド、まやかし 
キャッチーなタイトルの本が多い小幡先生だけれど、成長戦略は衒うことなく王道である。だからいい。

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