夕学レポート
2005年11月21日
食への畏敬の念 小泉武夫さん 「食の冒険家 大いに語る」
夜6時前、丸ビル7Fのエスカレーターをあがったところで福よかな太鼓腹の紳士と出会いました。それが小泉先生でした。「会場の下見をしたかったので早く来ました」と大きな声を響かせながら挨拶をしていただきました。控え室でも、人なつっこい東北なまりで、講演で話す内容や資料を早口で次々と説明してくれます。大学教授の傍ら、世界中を旅して、100冊近い本を書き、各種審議会・協議会の委員を務め、野球部の部長まで務めるという超多忙な毎日とのこと。カバンをガサコソとまさぐって本や写真をだされる際に、キャベジンコーワの瓶に入った薬のような物体が見えました。「やはり胃腸薬を常備しているのですね」などと失礼な質問をしたところ、「これですよ、これ!」といって見せてくれたのが、講演でも紹介された「乾燥納豆」でした。
椎名誠氏によると小泉先生は5人前の量をペロリたいらげる大食漢だそうです。しかしながら、5人分どころか、それ以上に動き、書き、話しているケタはずれの行動力を支える食欲でもあるようです。お腹の中でも納豆菌と乳酸菌が共同戦線を組んで暴れ回り、少々の食中毒菌などひとたまりもない鉄壁のディフェンスラインを持っています。小泉先生は「食の冒険家」だけでなく、「味覚人飛行物体」「ジュラルミン製胃袋」「走る酒壺」など強烈な異名をいくつも有しているようですが、言い得て妙というか、まあ凄い人です。
講演内容は、焼酎の原点をめぐるメコンへの旅からはじまり、アジアで出会った奇食・珍食の数々、ベトナム戦争がもたらしたカンボジア高地クメール族の新たな食物連鎖、人類の食生活の源流を想起させるアジアの人々のたくましき食慣習、わずかなお金のために貴重な野生動物を絶滅に追いやらざるをえない貧困のおぞましさまで、実に多岐にわたりました。小泉先生の旺盛な好奇心そのままに、思いのたけを発露していただいたような気がします。
なかでも一段と熱を帯びたのが、日本の食育教育の現状を憂いた場面でした。一日に300万食の食べ物が生ゴミとして捨てられることに憤りもせずに、脳天気な大食い番組にうつつを抜かす我々の意識に対して、憤怒に近い危機感を持っていることがよく分かりました。誰にも負けない「食」への好奇心を持ち、誰にも負けない行動力で世界を食べ尽くし、そして誰にも負けない強さで「食」へ畏敬の念を持つ、「食」の達人。それが小泉武夫さんだと思いました。
なお、たくさんの方から質問をいただいた乾燥納豆の作り方は『発酵は力なり』(NHKライブラリー)という本に書いてるそうですので、ご覧になってみてください。
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