夕学レポート
2014年04月22日
好きという力 戸田奈津子さん
映画「スターウォーズ」の構想を、ジョージ・ルーカスは10代のころに、すでに描いていたといいます。どうしても語りたいことがあったからこそ生まれた作品。彼のイマジネーションに、CGという技術が追いついてできた作品。エピソード4~6が前半のエピソードより先につくられた過程もこれを示しています。
映画「タイタニック」が世界的に大ヒットしたジェームス・キャメロンは、そのすべてを3Dの開発に投じたそうです。やはり10代のころからあたためていた「アバター」を立体的に見せたい、との思いを追及し、彼の次の大ヒット作は生まれました。
戸田さんは、2人の少年の夢が、映画を生み、映画と時代を変えた、というお話から始められました。そしてこれは後半の戸田さんご自身の姿とも重なりました。好きという力のモチベーション。
戦後、焼け野原となった東京で、食物にも知にも楽しみにも飢えていた人々の前に上映された映画。真っ白い画面に映し出される別世界。衝撃を受け、魅了され、映画ファンとなった、戸田さんもその一人でした。映画から英語に興味をもち、大学は英文科に進学します。大学4年で卒業間近になって、映画と英語、好きなこれらが結びつく仕事は字幕だと気づかれたそうです。しかし当時8人ほどの限られたプロが独占する男性社会。まったく入る余地はなかった、といいます。それでも20年もの間、夢を持ち続け、修行とアルバイトをしながら、チャンスを待ちます。そして節目となる『地獄の黙示録』、コッポラ監督と出会い、デビュー。
いちばんのモチベーションは、好きという力。
戸田さんの物語はまさにそう。説得力がありました。
プロフェッショナルであるとはこういうことか、と感じるお話でもありました。プロフェッショナルの極意も見せていただきました。
限られた字数、限られた時間で、映画のストーリー、話す人の感情や性格、言葉の背負う背景etc。実に多くのことを表現せねばなりません。約4秒で字幕14-16文字というからそれはすごいことです。それも、1本1,000~1,200文字、1週間で一本というペースでそれを仕上げます。制約が多いなかで、追究し、完成させていく。まさにプロの仕事です。
情報はあふれています。必要なのは情報ではなく、教養です。戸田さんははっきりとおっしゃいます。文化風土、舞台や時代、人物の性格や雰囲気、見極めたうえでそれらが伝わるように、言葉を選び、また、”創造”していく仕事。教養あってこそ。ここにもプロの姿を見ました。
戸田さんはさいご、「人間にしかできないこと。2つの「そうぞう」を」とのメッセージでくくられました。イマジネーションとクリエーション、想像と創造です。大ヒット作や歴代アカデミー賞作品ふくむ数多くの映画作品の字幕翻訳を手がけてこられた戸田さん。私たちにたくさんの感動や思い出をもたらしてくださいました。世界を見せ、魅せてくださいました。そして、戸田さんご自身の源泉、「好きという力のもつエネルギー」、説得力があって、私たちのなかのエネルギーを覚ましてくださった感覚がありました。
いま戸田さんが翻訳を手がけられた作品が上映中です。講演のなかではこの作品の場面をつかった実践も体験し、皆さんで難しさと戸田さんのすごさを実感して楽しかったですよ。
「リベンジ・マッチ」
シルベスター・スタローン(67歳)とロバート・デ・ニーロ(70歳)の夢の対戦、これに戸田さんの翻訳。「モーレツに面白い」作品だと戸田さんも添えられていました。ぜひ、字幕にも注目しながら、楽しんで見てみたいと思います。(湯川)
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