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夕学レポート

2014年05月22日

「情報余り時代」のビジネスモデル 小川進さん

photo_instructor_706.jpg小川進先生とは、実に12年振りの再会であった。
まだ、夕学五十講が昔の新丸ビル地下の大会議室でやっていた時(2002年5月)に来て頂いて以来である。
調べてみたら、その時の講演タイトルは「顧客と店舗の知恵を活かす経営」であった。
次のような内容紹介がされていた。

90年代以降に存在感を示した流通企業の仕組みについて紹介します。 セブンーイレブン、しまむら、ユニクロ、マツモトキヨシといった企業が どうして成長することが可能であったのかを事業運営の仕組みといった視点から 説明します

当時小川先生は、『イノベーションの発生論理』で組織学会の高宮賞を受賞したばかりで、それを実務家向けにリライトした『ディマンド・チェーン経営』も話題になっていた。新進気鋭の若手マーケティング研究者であった。
いま思えば、今回の講演の萌芽のような話をされていたのだなと思う。
「ユーザーイノベーション(消費者を起点としたイノベーション)」は、当時から一貫して小川先生が追究してきたテーマである。
ひとつのテーマを10年以上続ける姿勢は研究者の範になるべきだ。素晴らしい。
さて本題。
小川先生によれば、マーケティングの世界では、2005年以降大きくパラダイムが変わったという。ソーシャルメディアの登場が転換点であった。
消費者が、購買にあたって入手できる情報量が飛躍的に増えた。にもかかわらず、消費者が選択できる情報はそれほど増えていかない。
「情報余りの時代」が到来した。
歴史をみれば時代が変わる時に必ず新たな時代に適合する企業群が登場してきた。
フォード、トヨタ、セブン・イレブン、アマゾン等々がそれにあたる。
だとすれば「情報余りの時代」にも、新たな企業群が生まれるはずである。
それは「ユーザーイノベーション」の取り込みに成功した企業であろう。
小川先生はそう予見する。


すでに兆候は2000年頃から少しずつはじまっている。
いま、当たり前に流通している商品の中に、実は「ユーザーイノベーション」で生まれたものがあるという。
マウンテンバイク、キックボード、スケボーなどのアウトドア用品には多い。
いずれも「オタク」「ギーク」と呼ばれた人々が原型を作り出した。
ユーザーイノベーションは、製品開発だけはない、新たな用途を開発することで思わぬ大ヒットを産み出すこともある。
「竿中とおる君」は、釣り具として開発された商品を、消費者が巻き爪治療具として使い始めソーシャルメディアに乗って広がった。
saonaka.jpg
「マスキングテープ」は、もとは建築用に使われてものが、デコレーション装飾グッズとし大ヒットした。
masuku.jpg
狭心症治療薬のシルデナフィルは、バイアグラとして世に知られ、催眠鎮静剤のサリドマイドは、エイズ治療薬として使われるようになった。
いずれも、ユーザーや患者、医者が新たな用途を見つけた例である。
小川先生は、他にも「こんなのもありますよ」という例をいくつも、いくつも提示してくれた。さすが10年以上追いかけているだけある。
小川先生とMIT時代の恩師ヒッペル教授の共同調査によれば、ユーザーイノベーションは多くの分野で世界的に行われているという。
日本には470万人、米国では1600万人、英国でも290万人のユーザーイノベーターがいるという結果が出ている。
では、どんな人がユーザーイノベーターになるのだろうか。
ひと言でいえば、「ちょっと変わった人」「特異な環境にいる人」がほとんどだという。
車なら300キロを出すF1チームのカーエンジニア、飛行機なら空母着陸訓練に汗をながす空軍パイロット、のような人達である。
ユーザーイノベーションの取り込みが、これからの鍵と分かっていても、実際に取り込むことは難しいことも分かってきた。
1)ユーザーイノベーターはマーケ調査では見つけられない(ハズレ値として無視される)。
2)プロからみたらユーザーイノベーションはおもちゃに見える。
3)プライドが邪魔をして商品化に踏み切れない。
4)ユーザーイノベーターの多くは一発屋。実績のある人を取り込んでも失敗する。
等々がその理由である。
ではどうすればよいか。
「ユーザーコニュニティ」にヒントがあるのではないか、と小川先生は言う。
狙って出来ない時には、可能性を高めるのが取るべき方策であろう。多様性の中からイノベーションが自然発生するような孵化器を用意するということである。
ソーシャルメディア上の「ユーザーコミュニティ」はその孵化器になりうる。
ユーザーイノベーションの公開実験室であり、拡散メディアになる可能性を秘めている。
時代の追い風が吹いていることは間違いない。
とはいえ、ユーザーの声は雑多である。
ほとんどは冗長で、ひとりよがり、平均的なクオリティは低い。
製品開発プロセスに効率という尺度を持ち込めば、間違いなくムダなことである。
だから、多くの企業は本腰を入れない。
不可知なもの、理解できない世界に、価値を見いだせるかどうか、見いだそうとする意思があるかどうか。それが問われているような気がする。
「イノベーションとは新しい組み合わせである」
100年前のシュンペーターの言葉を噛みしめるべきかもしれない。

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