KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2014年10月14日

先進国におけるビジネスモデルイノベーション

photo_instructor_734.jpg最近は受験生が入試の日に、お弁当でトンカツを食べることは少ないそうだ。
親が子どもの胃もたれを心配し、お弁当に入れないからである。
しかし、験を担ぐ食べ物がなくなったわけではなく、約10年前からネスレの「キットカット」が受験のお守りになりはじめた。
「キットカット受験生キャンペーン」を成功させたのが、当時マーケティング本部長であった高岡浩三氏である。


新しい現実
「広告の力は終わった」と、高岡氏は15年間言い続けている。
私たちは、Appleもニトリも、スターバックスも、有名ブランドは、テレビコマーシャルではなく全部ニュースで知ったのだ。
高岡氏が言うニュースの定義とは、自分の胸にしまっておけないことや、誰かに言いふらしたいことである。
レストランにおいても、いくらお店の店長やシェフが頑張って「美味しい店です」と、宣伝しても説得力はない。
携帯やパソコンで調べれば、お店を利用した人々の生の声を聞くことが出来る。
私たち、先進国の消費者は、利害関係のない人が言っていることを信用するのだ。
私も何度も広告に裏切られた。
大きいエビの天ぷらだと思ったら、ほとんど衣だったこともあれば、「全米が泣いた」という映画が、泣くどころか、とてもつまらなかったこともある。
誰もがしてきた経験だが、出来ればしたくない。
レストラン、ホテル、病院など、はじめて行く場所は必ずネットで口コミを見てから行くようになった。
バブルははじけたが、やり方が今までと一緒なことが日本経済停滞の原因であると高岡氏は言う。
現在の東京は、1人または2人暮らしが80%。地方では60%だ。
消費の仕方もまた変わってきているのだ。
この20年間で生鮮食品の売上げは30%減少。反対に冷凍食品は20%増だ。
冷凍食品の売り上げはもっと伸びると高岡氏は予測している。
私たちの子どもの世代は生鮮にはこだわらない。
高齢化社会や、少子化社会を嘆く人もいるかもしれない。
しかし、社会の問題ではあるが高岡氏には大きなビジネスチャンスなのだ。
この心が腐ったようなメンタリティーこそ、世界で戦うのに一番大事なことのだと言う。
ネスカフェがこのメンタリティーで、イノベーションしたのがコーヒーだ。
インスタントもレギュラーコーヒーも、大家族で飲んでいた頃は便利だったが、一世帯あたりの人数が減り、お湯を沸かすのが面倒になった。
3,4杯作るのには便利だが、1、2杯のためにわざわざお湯を沸かすのは、かえって不便なのだ。高岡氏はオポチュニティーを見つけた。
ボタンを押すだけで、コーヒーが出てくるバリスタを、ネスカフェは世界ではじめて作った。
barista.jpg
ポーションの値段は、インスタントやレギュラーコーヒーの5倍、7倍にも関わらず売れている。
「ネスカフェ システムインサイド」
現在、1年間に消費コーヒーの量は約500億杯ほどだそうだ。
そのうち、190億杯が家庭外で飲まれている。
家庭内コーヒーがメインであるネスカフェは、そこに目を付けた。
「ネスカフェ システムインサイド」とは、「Intel Inside」をヒントにして、高岡氏が名付けたイノベーション戦略である。
Windowsのパソコンには自然とインテルが入っているように、ネスカフェも家庭外という職場に、自然と入ることを目指し、はじめた企画が「ネスカフェアンバサダー」だ。
コンセプトは「屋外で人が集まってコーヒーを飲めば、ネスカフェのカフェである」。
カフェマシーンの貸し出しはするものの、ポーションはアンバサダーの自費だ。
無償にも関わらず、現在ネスカフェアンバサダーは全国に14万人以上いる。
皆でコーヒーを飲むことにより、社内のコミュニケーションが良くなったと有難がられるケースもあるという。
イノベーションアワード
現在、ネスレが行っているビッグ・イノベーションの1つが「イノベーションアワード」だ。
派遣社員も含めた全社員から、売上アップのアイディアを募集し、優勝者には100万円とスイスペア旅行がプレゼントされる。
「イノベーションアワードの狙いは二つある」と高岡氏。
一つは誰もがイノベーションに関わること。
二つはダイヤモンドの原石を見つけるトップの目を養うこと。
今までの優勝者には、山形県でセールスをしている派遣社員の女性や、高卒でアプリケーションソフトを作っている工場に勤める青年が選ばれている。
会社のトップパフォーマーと、トップイノベータ―が、必ずしも一緒ではないのだ。
最後に「何よりも行動することが大事」と高岡氏は聴講者たちに伝えた。
イノベーションアワードも、アイディアを出して終わりではなく、一年間行動をおこして検証しなければいけない。
講演を聴いて、やる気になる人は沢山いると思う。
しかし、口で言うだけなら簡単だが、行動におこし、続けることが出来る人が今日の講演で何人でてくるだろうか。私は100人に1人しか出来ない難しいことだと思う。

ほり屋飯盛
メルマガ
登録

メルマガ
登録